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クレティアでの一件の審議には盟主様の直属であるオルネーゼ、ジャイワールの王子であるツェザール、そして特例としてラゼルとテレシアが出席した。伝承の塔に入ってみたい気持ちも大きかったナマエだが、クレティア女王の安否がどうなるのが、という不安が先に立った。「まあ、女王様、結構優しいし」「…有無を言わさず殺されても、おかしくないような登場だったもの、私」頷き合うマーニャとナマエは噴水の前で、ミネアを挟んで言葉を交わす。「…あの、姉さんにナマエさん。どうして私を挟、」「ちゃんと最後まで真剣に見てくれたよね」「そうそう。何より、あの魔法力!すっごかったわ」「あああ!それだよ!マーニャったら、私も巻き込まれたんだよ、あれ!」「あー…ごめんね?」「や、テンション上がっちゃったらもう止められないからしょうがないけど…」手を合わせ、お茶目に微笑むマーニャにミネアがはあ、と息を吐き出す。
そんな三人を、遠目から見守る影がふたつ。
「なあマリベル、羨ましいのか?」
「…べ、別に。いいのよ、アタシは」
「オイラもナマエとマーニャと、もっと喋ってみたいぞ」
「………」
「ダメか?」
「……っ、ガボが言うから!しょうがなく!行ってあげるのよ」
「そうか!」
ぱっと笑顔になったガボに、やはり甘くなってしまうとマリベルは思う。「…あああ、アタシってほんっと優しい…」「マリベルはいつだって優しいだろ」「う、うるさいわね」そんなのアタシが一番よく知ってるわよ、と目を逸らすマリベルにガボとオオカミの心がぽかぽかと暖まった。「…いやあ、いいもんを見たなあテリー」「……」ハッサンのいい笑顔にどう答えたらいいものか分からぬテリーは、そっと目を逸らしてナマエを見た。――輪の中心に成るナマエを、初めて見たときはまだレック達と出会う前だった。魔族の言葉に耳を傾け、強さを求め堕ちていった先で、レック達に救われナマエとここで、ようやく"出会った"。旅の最中、ナマエの存在を確かに諦めた。世界が平和に成り、分かれ、もう二度と会うことはないだろうと思っていたナマエの存在が今、自分の隣に在るのは果たしてどんな経緯の果てだったのか。
――"再会"は、どこであったのか。
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黒衣の予言者なる人物を探し出そうとしたところで、大変な知らせが入ったようだった。モンスタレア地方――ツェザールとテレシア曰く、ゼビオンの北側に広がる、魔物達が暮らす地域には、知性の高い魔物の王が収めるダラル、フェルノーク、モーリアスという三国が存在するという。魔物の国といえど、平和そのものであるその三国にそこにオレンカ、ジャイワール、ゼビオン、クレティア…人間の暮らす四国を加えて、この世界は七国で成り立つらしい。ところがつい先程入った知らせでは、ダラルの軍がフェルノーク、モーリアスに攻め込み一夜にして制圧してしまったというものだった。盟主様にモンスタレア地方に迎えとの命を受けたというオルネーゼが、パーティを一時解散する。
「そういえばナマエさんは、武器を使われないのですかな」
「一応、申し訳程度に短剣を扱えるけど…どちらかというと、補助ばかり」
「いやはや、大の男三人を相手に、一度で動きを封じてしまうその呪文捌き。お見事でしたよ、あれは」
「トルネコさんは褒め上手だなあ」
「……あんまりそいつを褒めるな、調子に乗る」
「そうだな。…俺はともかく、テリーもハッサンもあんたの姿を見て随分安堵していたようだった。そこにつけ込んだのならば、なかなか容赦のない女だと言える」
「テリーが素直じゃないから、つい」
「素直であるのは、夫婦円満の秘訣ですよ、テリーさん」
「……っ、」
「やだなあトルネコさん、夫婦だなんて。……ふ、夫婦だな、んて!?」
「随分可愛らしいお顔で固まるのですね、ナマエさんは」
「あれは意識しないで喋ってて、唐突に意識したって感じねー」
「……………フウフって、ツガイか?」
「ガボくんにはまだ少し早いですかねえ」
「なあテレシア、ツガイってなんだ?」
「…ラゼル、お前にもまだ早いみたいだ」
「いとことしては今の言葉、結構恥ずかしいわよ…」
賑やかな会話を聞きながら、オルネーゼは一時解散の意味を頭の中の辞書で引いた。
20160709