06
ヒーロー科はヒーロー科でも、当然普通の…大人になるための授業だって組み込まれている。雄英はヒーロー科で有名な学校でもあるけれど、偏差値の高さで有名な学校でもあるのだ。
教卓に立つプロヒーローの姿は、私をどことなく不思議な気持ちにさせた。メディアによく顔を出すヒーローはやはり、派手な個性を持っている人が多い。ノートにペンを走らせながら、思い出すのは昨日の帰り道の焦凍の言葉。
お前って、昔から派手な個性に目ェ惹かれるよな――…そうかもしれない。ヒーロー、という存在に強い憧れを抱くのは今でも変わらない。でもそれに自分が成れるのかといえば別問題で、そもそも私の憧れるヒーローは敵を纏めて吹き飛ばしてしまうようなタイプだ。それこそ分かりやすいところで言えばオールマイト。そういえば随分昔だけど、焦凍にオールマイトのインタビューだとか、オールマイトが事件に立ち向かうときの一部始終を収めた動画を見せられた記憶があるような。そこから憧れを抱くようになったんだっけ。出会ったときは警戒心の塊で、何度か一緒に遊んだ後、慣れてもずっと無表情だった焦凍の宝物を見せるような表情を見た驚きの方が、記憶に強く残っている気がする。
**
「やっほー苗字ちゃん!」
「あ、耳郎さん」
「……ウチさ、やっぱ名前って呼んでいい?アンタもウチのこと響香って呼んでよ」
午前の授業を全て終え、食堂に行くべく財布を探していた私に声を掛けてきたのは昨日も少しだけ話した黒髪のイヤホンな彼女だった。「やっぱ、慣れないわ」耳郎さんってムズムズする、と頬を指で掻いた耳郎さんこと響香ちゃんは、ちらりと私の手元の財布を見やる。「もしかして名前、昼は食堂?」「うん」頷いて、財布の中身を確認する。まあ、そこそこ…学生が財布に入れている金額としては普通だと思う。
雄英の食堂のご飯は安いと聞いているし、一流ヒーローが作っているから美味しいらしいし。お弁当を作ってもいいけど、育ち盛りの焦凍の分もと考え始めれば毎朝そこそこのお弁当を作らねばならない。『お前朝弱いし、それならいっそ毎日食堂の方が楽だろ』というのが焦凍の意見だった。主に朝弱い、の部分に反論は出来なかったので、深夜のお昼ご飯に関する私と焦凍の意見交換はそこで終了。結果今に至る。
「じろ……響香ちゃんは?」
「ウチも食堂で食べようと思って。一緒にどう?」
「勿論構わないけど、…従兄も一緒にいい?」
「いとこ?」
「ええと、向こうから私のこと睨んでる轟焦凍なんだけど」
おいさっさとしろよノロマ、と廊下の方から雄弁に語る目からそっと目を逸らす。「ああ、従兄だったんだ。道理で一緒にいるのが多いわけだ」納得した、と言わんばかりの響香ちゃんの後ろからひょっこりと八百万さんも顔を出した。
「私、あなた方は付き合っているのかと思っていましたわ」
「ウチも」
「…驚かれませんの?」
「や、足音は聞こえてたし」
八百万さんの茶目っ気は響香ちゃんに通用しないらしい。こほんと一つ咳払いをして、私も良いですかと聞いてきた八百万さんを断る理由はなかったので、私たちは三人で廊下に立つ焦凍のところに向かう。廊下からこちらを見ていた焦凍は一瞬だけ不機嫌そうな目をしたけど、すぐにいつもの無表情に戻った。ううん、男の子一人じゃやっぱり気まずいだろうか。でも声を掛けるにしても緑谷君は既に飯田君達と食堂に行っちゃったみたいだし、それなら私も早く食堂に行きたいというか、…あああどうして真っ先に緑谷君のことを考えるかな!?ちょっと冷静になれ苗字名前!そう落ち着いて、深呼吸…
「おーい、そこの女子三人!食堂行くんなら俺も一緒に…」
「ええと…上鳴だっけ」
「私は別に構いません。お二人は?」
「ウチも別に気にしないよ。名前は……なんで顔赤いの」
「え、苗字って俺に気があったりする?マジで?」
「大丈夫大丈夫普通普通……」
「……上鳴、アンタ眼中に入ってないよ」
「マジか」
(2015/05/16)
多分次から上鳴が切島を連れてきてその切島が爆豪を連れてくるやつ
夢主と轟は賑やかな中でもお互いペースを崩さない感じ。いつか書きたい
*結局書きました。以下おまけ会話。
「…随分賑やかだな」
「焦凍、こないだもそば食べてたのに今日も食べるの」
「別に良いだろ、俺が何食ってようがお前には関係ない」
「そうだけどさあ…」
「お前こそ白米にミニうどんって…炭水化物ばっかり食ってんじゃねえ」
「だって雄英のごはんは美味しいっていうから試したいし、でも今日の気分はうどんだし」
「……おい白米少し寄越せ」
「はいはい。ほら口開けて」
「確かに美味いな。お前が炊いた飯と比べ物にならねえ」
「しょうがないじゃん、まだ土鍋に慣れてないし。炊飯器最高!」
「おこげが食いたいとか言ってたのはどこの誰だ」
「で、焦凍。私にもそば食べさせてよ」
「…話逸らしてんじゃねえ」
「お、いける!こないだファミレスで食べたのと全然違うね!」
「お互い表情ひとつ変えないであーんとかレベル高すぎじゃない?」
「あの二人、本当に付き合っていませんの?」
「なんだよ苗字!俺のことが気になってるんじゃねえのかよー!」
「一言もそんなこと言ってないと思うんだけど」
「でも雰囲気が少し似ていますし、そう考えると兄妹のようにも…いえ…」
「お互い異性として意識したことあんのかなあ」
「つまり苗字に俺を異性として意識させれば恥じらいながら俺にあーんしてくれ、」
「ないと思いますわ」
「ないと思うね」
「してくれる!」
「…ポジティブですわね」
「まあポジティブなのはいいと思うけどね」