07


午後の授業、教室の扉を勢いよく開けて入ってきた本物のオールマイトには教室中が興奮を隠せないようだった。銀時代のコスチューム、だとか画風が、とか、たくさんの声が教室のなかを所狭しと飛び回っていた。私はといえば、目の前に現れた本物のオールマイトに、茫然とするだけ。――テレビでしか見たことのない、平和の象徴がテレビを飛び出し目の前に現れたのだ。まるでコミック、と小さく呟いたのは隣の常闇君に聞こえたみたいで、小さく笑う声が彼の方から聞こえた。焦凍は無表情を変えていなかったけど、目を珍しくきらきらと輝かせていたからすごく、嬉しかったんだと思う。――緑谷君も、目をきらきらと輝かせてオールマイトを見つめていた。その横顔に見入っていたら、手元には既にコスチュームが渡されていた。緑谷君を見ていると、時間が流れるのが早いような。


「苗字さん、素敵なコスチュームですわね」
「八百万さんは刺激的過ぎるかな…」
「そうでしょうか?」


隣では蛙吹さんが腕にバンドを巻いている。一番に着替えを終えてしまった八百万さんの露出の高さからそっと目を逸らしながら私も手袋に指を通した。指先だけ空いている穴も要望通りだ。耐熱素材を使ってくれているみたいで、火事のなかにも飛び込んでいける人命救助に傾いた性能のスーツ。ブーツのかかとに装着されたブースターで速度の強化、あと…色々書いてあるからとりあえず帰って全部読もう。今は着替えてしまうのが先だ。
手渡されたメモと照らし合わせて、装備の細々とした部分を確認しながら本物のコスチュームに袖を通していくのは気恥ずかしくもあり、むず痒いようで、同時に高揚感が湧いてくる。緑谷君はどんなスーツなんだろう。あ、緑谷君に見られるんだ!?私変じゃないよね、かっこいいよねこのスーツ……ちょっと胸が、きついような?


「あれ、名前ちゃんも胸きついん?」
「…お茶子ちゃんも?」
「要望ちゃんと書けば良かったんだよねえ」
「私、全部書いたはずなんだけど…」
「成長したってだけじゃない?そのうち慣れるよ」
「響香ちゃん!?」
「スーツですし、ぴたりとしていた方が動けますわ」
「…八百万さんがそう言うのなら」


しかし響香ちゃんはともかく、八百万さんのスーツ、すごく……「名前」「どうしたの、響香ちゃん」「アレは発育の暴力だよ」「う、」言葉に詰まった私の肩を、何を察したのか響香ちゃんだけでなくお茶子ちゃんまでぽんぽん撫でるものだから思わず、自分の胸を見下ろしてしまう。ついでにちらりと隣の蛙吹さんの胸元も見てしまう。でもやっぱり最後に見てしまうのは八百万さんの胸元で、それに比べて自分は…発育の暴力でないのは確か。言うなればふつう。…緑谷君はどうだろう。


「やっぱり大きい方がいいのかな……」
「名前ちゃん、大きくなりたいんだ?」
「揉んで貰えば良いと思うわ」
「へ!?ああああうあ、蛙吹さん!?」
「梅雨ちゃんと呼んで」
「揉んでもらうって、誰!?誰に!?」
「轟ちゃんじゃないの?」
「えっなんで焦凍…」
「その反応は意外だわ」


そうなの、と残念そうに肩をすくめた蛙吹さんはロッカーの扉を静かに閉めた。二日目だというのに、私と焦凍はクラスメイトに付き合っていると思われているのか…もしかして緑谷君もそうなのかな。今まではきちんと話せば理解してくれていたし、そんなに気にしたことはなかったけど…緑谷君には少しでも早く誤解を解いて欲しい。緑谷君だけでいい。緑谷君以外には、勘違いされたって構わない……そのためには緑谷君に話しかける勇気を出さないと!


「私、頑張る」
「…燃えてるね名前ちゃん!」
「どうでもいいけど、早く行かないとまずいわ」
「苗字さん、早くそのブーツのベルトを締めてしまってください」
「いいよ、ウチが右やったげる」
「では私が左を」
「結構過保護なのね、二人共」




(2015/05/16)

女の子との絡みを書きたいばかりに進まないこの遅筆…