03
仲間に入れて欲しいという私の要望に、ディルク様達は快く承諾してくださった。テリーは私を役に立たないかもしれないぜ、なんて言ったけれどアクトは私の気持ちを優先してくれたから、晴れて私はバトシエの一員となった。担当は当然後衛だ。前衛なんて死ににいくようなものである。
戦いに直接は貢献出来ないし、正直本当に何がなんだか分かってないけど、でもせっかく自分の知らない世界を知ることが出来るんだもの!チャンスは逃したくないし、色んなものを目に焼き付けたいと心から思う。現にアクトから少しだけ、エルサーゼ王国の話を聞いたけれど世界樹の下に位置する王国……この一節だけで歌が一つ作れそうなぐらいにどきどきする。美しい世界樹、白煉瓦の通り、広場を見下ろせる展望台、賑やかなメインストリート……魔物と共存していたのだと語ってくれたアクトは、こういった説明は俺じゃなくてあいつの方が、と言葉を濁して雑談を終わらせた。寂しそうな横顔はいつかの誰かに似ている気がして、私をなんとなく放っておけない気持ちにさせた。
アクトから再び酒場に案内され、今度はきちんと全員を紹介してもらう。ひととおり自己紹介が住んだところでホイミストーンの補充が終わった知らせが入り、私達は再び塔を上ることになった。――塔の最上部で見たこともない巨大な魔物と対峙し、魔物の扉と呼ばれる魔物が湧き出す不思議なゲートを目にし、飛び入り参加だというのに光の女神たる存在に謁見出来たのは正直、なんというか…想像以上?予想以上もいいところだった。素材が多すぎて、逆に困ってしまうような。綺麗に整理しないとどうにも、新しい歌は作れそうにない。
光の女神との謁見のあと、姿を現したブオーンという巨大な魔物についても思いを馳せることになった。アクトはあのブオーンを操っていた、銀色の髪をした禍々しい雰囲気の男…ヘルムードと呼ばれていた男が全ての元凶なのだと言う。見たこともない魔物に、やっぱり見覚えのない世界。あの男から発せられる禍々しい雰囲気。それを見たあとにアクトと対峙すると、なんだか私はほっとしてしまうのだった。あの男をちらりと見ただけでも嫌だなあ、って気分になるのにアクトを見ているとなんだろう、優しい気持ちになってくる。支えてあげたい、って思うような。
「なんだろう、アクトって放っておけない人だね」
「…それがどうした」
「テリーも、アクトは放っておけなさそう」
「あいつは完璧な作戦とやらに随分自信があるらしいからな、放っておいても良いんじゃないか」
「うーん、完璧な作戦…?」
「今は相棒が攫われて、…らしくないだけだ」
そういえばテリーは、私よりもアクトと長い付き合いになるのか。「ねえテリー」「なんだ」キングレオとの戦いで、少しばかり消耗したのだろうか。壁にもたれ掛かって腕を組むテリーは、どことなく気だるげな雰囲気だった。私も回復やらホイミストーン係やら、補助やら任せられてそこそこ疲れたけれども前線で直接的なダメージを与えていたテリーやアクト、アリーナ達よりは疲れていないと思う。でもそれでもアクトは一人、次の目的地である海底神殿を探すためにワールドマップに付きっきりだ。その後姿が脳裏を過ぎるたび、やっぱり私の頭の中には一人の男の人が浮かび上がってくる。
「なんて言うのかな、アクトはちょっとだけ雰囲気が似てるよね」
「…誰にだ」
「レック」
そういえばサンマリーノに出かけて帰るまでの間を考えると、レックには2週間程会っていないことになる。「……はあ」異世界に迷い込んでそこそこの時間が経っているわけだし、…帰ったら怒られるんだろうなあ。今回のサンマリーノ行きも海を見て新しい歌を作りたい、って私が我儘言ったからハッサンへの届け物、っていう体で行かせてくれたのに。はあ、ともう一度溜息を吐くと何故だか苛立ちを隠そうともしないテリーの姿が横にあった。小さく舌打ちをする音と、刺々しい目線を横から感じてそっと振り向く。
「…な、なにテリー。私何か不愉快になるようなこと言った?」
「知るか」
「え、えええええ……」
吐き捨てられて、かつかつとブーツの足音を響かせながらテリーが酒場の扉を乱暴に開いた。そのままばたん!と普段よりも大きな音を立てて閉じた扉に酒場にいた全員が振り返る。流れで、扉に向けられていた目線は私に流れてくるから私だって分からないんです!と目で全員に訴えておく。本当、なんでここに来たの私だったんだろう…テリーの扱いなんてレック達ほど上手いはずがない。こんなことになるんならチャモロに少しでもテリーの扱いを教えてもらうんだった…。
(2015/03/05)