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体の節々が痛むのは、やっぱり床で眠ったせいだろうか。
起き上がって毛布を畳んでから、ゆっくりとベッドを覗き込んだ。…イシガシさんは、目を閉じて微かに寝息を響かせていた。深夜の出会いが夢ではなく現実であったことをしみじみと実感しながら音を立てないようにして上着を羽織った。…昨日の夜の私は疲れていたのもあっただろうけど、相当強引にイシガシさんを部屋に入れたなあと思う。これでイシガシさんが天馬君の知り合いでない、なんてことになったら大変だけど恥ずかしい思いをするのは私だけだし…見知らぬ人だけど女の人を野宿させるなんて出来そうにない。
とにかく私の部屋に人が泊まっていることを私は秋さんに知らせなければならなかったし、何より天馬君に友達が来ていることを知らせねばならない。なるべく音を立てないように部屋のドアを開けて、階段をなるべく静かに下りる。……下りきったところではあ、と思わず息を吐き出してしまったのは、素性の知らない人に気を使って疲れたからかもしれなかった。本当、月曜日なのになんで疲れ引きずらなきゃいけないんだろう…
「あ、名前ちゃんおはようー!…じゃない!名前ちゃん昨日すぐいなくなっ、」
「天馬君!天馬君にも責任あるからね、これ!」
「へっ?」
「あら名前ちゃんおはよう、昨日は起きてられなくてごめんなさいね」
「それは全然構わないんですけど秋さん、その…朝食もう一人分、大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど…誰か食べに来るの?」
「ねえねえ名前ちゃん!俺何かした…?」
不思議そうな秋さんの目線と、捨てられた子犬みたいな潤んだ瞳に挟まれて思わずははは、と乾いた笑いが漏れた。「実は昨日の夜、帰る途中で天馬君の友達って人に会って…昨日の会に招待されてたのに、天馬君の描いた地図がひどくてここまで辿りつけなかったみたいで。ここまで来れなかったら野宿だって言われて、つい」肩をすくめると天馬?と秋さんが天馬君に目線をやった。釣られて私も天馬君に視線を戻す。
「……名前ちゃん、それってもしかしてイシガシさん?」
「あ、うん。イシガシさん」
「…………どの部屋にいるの?」
「どの部屋って、私のベッドで寝てるけど…」
「一緒に寝たの!?」
「いやいやいや、流石に初対面の人と一緒のベッドは同性同士っていっても流石に」
「同性同士!?」
何やらすごい気迫で迫ってくる天馬君に思わず一歩下がると、背中が壁に触れた。う、うわ、追い詰められた…!よく分からないけどこれは、ちょっとまずいやつなのではなかろうか。「名前ちゃん!」「は、はい!」天馬君の声に両手を上げて返事をするけど、どうにも天馬君は止まりそうにない。どれだ?私は何て言った?私は何をして天馬君のスイッチに触れたんだ…?別に女同士ならそこまで問題でもなくない、かな?……あれ?
もしかして、私がひどい誤解をしていたら恐ろしいことなのではないだろうか。ごく身近にいる女顔をした身内の表情がふわりと脳裏に浮かんで、消えた。ぱっと見たときに女の人だと思ったら、男の人だった…なんてことは珍しいけれど…実際、それは無いわけじゃない。時々女の子より腰の細い男の子だっているぐらいだし…大人だったら見分けは付くけど天馬君達の同世代には正直見分けの付かない子だっている。ほら、神童君とかも最初は男子制服でなければ女の子だと誤解していておかしくなかったし……ま、まさか。まさか!
「……天馬君、まさか」
「俺、名前ちゃんが初対面の男を部屋に寝かせる人だったなんて…でも俺は…」
「誤解!誤解!天馬君!?いや私は悪くない!絶対悪くないから!」
七日目:朝
(2015/03/04)