08
「いや、別に何かのデータとか、そういうわけじゃないんだけどね」
「…なんだ」
「好きな食べ物っていってもよその星から来たんじゃここに何があるか分かんないだろうし」
「………」
「……ええっと、食べられないものってある?というか何食べてる…の?」
「一般的に地球人が食しているものは問題ないはずだが」
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そういう意味じゃなかったんだけどな、とは言い切れないままキッチンへ戻った。「どうだった?」秋さんの問いかけに黙って首を振る。頼みの綱の天馬君は現在、パーティグッズ調達中(のはずだ)。しょうがないわね、と秋さんが困ったように笑う。
「名前ちゃん、天馬は確か友達を連れてくるんだっけ」
「出かける前にそんなことを言ってました。ギャラクシーイレブンがどう、とか」
「じゃあ、みんながお腹いっぱいになれるものにしないとね」
天馬はさっき出たから、と少し宙を仰いだ秋さんがテーブルの上のお財布を取った。「名前ちゃん、」「はい」一枚、諭吉を抜き取って私に差し出した秋さんが、ちらりと階段に目をやった。…ふむ、この流れはまさか。
「他のみんなはまだ帰らないし、私はケーキの仕込みがあるし…」
「秋さん!私一人でも大じょ、」
「流石に無理があるわ、名前ちゃん」
一緒に行ってきてね、と笑顔を向けられたらもう黙って頷くしかない。確かにまあ、諭吉さんだし…しょうがないと言えばしょうがない。秋さんの言う食材をつらつらとメモに書き留めて、重い足を引きずり階段を登る。ノックにもう一度顔を覗かせた宇宙人は、買い物に行くと言うと物凄く嫌そうな顔をした。一人だと無理があるって秋さんが、と言いながら申し訳ない気持ちになっていると、嫌そうな顔を崩さず少し待て、と言って宇宙人は扉を一度閉めた。
数分後、扉から出てきた彼は至って普通のラフな姿だった。案外違和感なく収まっているその姿に、そっと息を吐き出した。着替えたらすごく宇宙人でした!なんて姿を想像していたなんてことは決してないけど、いやあ、本当に良かった。
六日目:午後になったばかり
(2015/02/03)