静かな空気に満ちた図書室


ナマエの様子がおかしい。


「どうしたんだよリュゲル兄、難しい顔しちゃって」
「…ああ、ちょっと、な」


ちらりと見やるのはナマエ。俺達に気がつかないようで、眼鏡を掛けて読書をしていた。ガンダレスはおそらく気がついていない。これ読んでよリュゲル兄!と差し出してくる本を生返事のまま受け取って開く。

ナマエの様子がおかしい、という考えが確信に至ったのはこの間だ。廊下ですれ違った時に咄嗟に手を後ろに隠した。今までナマエは俺に隠し事をしたことなんて無かったのだ。――だからこそ、想いを伝えた時に断られたのは相当にショックだった。通じ合っていると思っていたから。俺と同じ気持ちだと思っていた。

比較的簡単な内容の本。ところどころでガンダレスが呻く声を拾って読めない文字を教えながら、物語を読みすすめていく。ガンダレスはどんどん開いた本に顔を近づけてのめり込んでいた。思わず頬が緩んで、自分はそっと顔を離す。



――――ナマエと目が合った



「……っ」


次の瞬間、息を呑むような声が聞こえてはじかれるようにナマエは顔を逸した。どうしたんだ、あいつ。目を見開いたように思えたのだけど、気のせいだろうか。よくわからないまま、ナマエに会えたのが嬉しくいつものように手を振っていた。が、ナマエはいつの間にか鞄に本を詰め込んでいたのだ。まるで俺達から逃げるみたいに。

最近本当におかしい。俺は避けられている気さえしている。追いかけて捕まえて問い詰めてやろうと立ち上がろうとした瞬間、ガンダレスに腕を引っ張られた。「リュゲル兄!これなんて読むんだ?」「ああ、これは…」なんだっけ、思い出せない。ええと、確か……




(2014/01/05)