兄弟二人の部屋


リュゲル兄がとても悲しそうな顔をして俺のところに帰ってきた。どうしたのと聞くとなんでもないと言った。じゃあリュゲル兄、どうしてなんでもないのにリュゲル兄は泣いてるんだ?どうしてそんなに悲しそうな目をして俺を見つめるんだい?

リュゲル兄はそのまま数秒間の間、俺を見つめた。そして唐突に抱きついてきた。その腕が震えていたから酷く不安になった。リュゲル兄、リュゲル兄、――おれにはよく分からないけど、大丈夫だよ。リュゲル兄はすげーんだから、大丈夫だよ。

何度も繰り返すと段々リュゲル兄は落ち着いてきたみたいだった。涙を拭って顔を上げたリュゲル兄はなんだか嬉しそうな顔だった。俺から腕を離したせいで、すーっと風が通っていくみたいだ。「…まさか、ガンダレスに励まされる日が来るなんてな」「へへ」ありがとう、と言われた瞬間にふつふつと胸に湧き上がってくる歓喜。リュゲル兄に喜んで貰えるんならなんでもいいんだ、俺!頷くと頭を撫でられた。髪を掻き回される感覚が心地いい。


「そうだよな、きっと大丈夫だ」
「……リュゲル兄?」
「ナマエは俺のことをきっと、もっと見てくれるようになる。そうしたら…」
「ナマエ?リュゲル兄、ナマエってあのナマエ?」
「ああ。――こんなことで泣くだなんて、俺もまだまだ子供だ」


リュゲル兄はとても寂しそうに笑った。…もやもやする。むかむかする。リュゲル兄が泣いていた原因はナマエなんだ。ナマエのことは別に好きでも嫌いでもなかったけど、今はっきりと嫌いになった。ナマエがリュゲル兄を泣かせた。ナマエが。ナマエなんかが。


「リュゲル兄」
「なんだガンダレス」
「おれ、ナマエの事嫌いだ」
「どうしたんだ、いきなり」


不思議そうな顔をするリュゲル兄の腰に腕を回した。大好きで尊敬していて、いつだって俺の憧れの兄。そんな兄に悲しそうな顔をさせるナマエは大嫌いだ。



(2014/01/04)