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ピカチュウが気にしていたのは、どうやらリボンだったようで。
ずっと私の服の裾を引っ張って遠慮していたピカチュウは、私がリボンを買ってしまうなりボールの中に戻ってしまった。私に貰うのが嫌だ、なんてことはないよねえなんて危惧しながらイーブイと顔を見合わせたのはもう数十分ほど前のこと。船の出発の時間も迫っていたし、私達はリボンとピカチュウのことは先送りにして船に飛び込んだ。切符を確認した乗船員さんが、苦笑いで私達を船の中へと見送ってくれた。
汽笛とともに港から離れていく船。グリーンさんとレッドさんのことを考えないわけじゃない。次に会った時、どんな顔をすればいいのか……いや、顔を合わせることなんて出来るのか。もうあんな風に笑えることはこの先無いかもしれないと思うと、胸が苦しくなってくる。
「ブイブイーッ!」
「あ、うわ、ごめんって!朝ごはんだよね?はいはい待って、待ってってば」
ぐいぐいと私の足を押すイーブイはお腹が減ったみたいだ。そういえば私もお腹が空いたなあ…ちらりと背後を振り返って、もう随分遠くになってしまったクチバの港を目に焼き付ける。ごめんなさい、と心の中で謝って背を向けると酷く後ろめたい気分になった。
なにも言わずにここまで来た。迷惑を掛けられるだけ掛けた。甘えてばかりで、何も返せていない。…でも、私はきちんと自分がここにいる意味を知って―――その上で帰らなきゃいけない人間だ。
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「………」
「う、ピカチュウ、もしかしてこの色じゃなかった?」
「…………」
ぷるぷると首を振るピカチュウは、私から目を逸らして無言を貫いたままである。朝食を摂り終えたから早速ピカチュウにリボンを結んであげようとしたわけだけど…「ブイ?」「……!」顔を覗き込むイーブイに対しても、リボンを手にする私に対しても決して目を合わせようとしない。一体何が気に食わないのやら。
「ねえピカチュウ、ちょっとは仲良くしようよー」
「……」
「うう、なんで付いてきてくれるつもりになったんだか」
ピカチュウにはピカチュウなりの考えがあるのかもしれないが、それにしたってもう少し私と距離を縮めてもいいと思う。さてどうすれば私はピカチュウと仲良くやれるのやら…イーブイも困ったような顔で見上げてくるからお手上げである。
どうしたものか、と悩んでいるうちにじりじりとピカチュウは私達から距離をあけていた。デッキから通路の方へ、ゆっくりとゆっくりと。「でもピカチュウ、このリボンは―――あ!」声を上げた瞬間にはもう遅い。走り出したピカチュウが船内に消え、慌てて立ち上がった私ははじかれたように駆け出した。そんなに広い船じゃないけど、ピカチュウが誰かにぶつかったら迷惑をかけてしまう!
「待って、ピカ…――――っ!?」
「な…!」
――飛び込もうとした通路から、同じぐらいの背丈の影。
どん、とぶつかる感覚があって私は背中から倒れ込んだ。床に着地したお尻が痛い。イーブイの声が近くにやってきて、思わず反射的に閉じた目をゆっくりと開けた。「っ、ごめんなさい!」目の前には赤い髪の毛の男の子が私と同じように尻餅をついていた。慌てて起き上がって腕を伸ばす。
「……おい、アンタ」
「は、はい…?」
「ちゃんと周り見て走れよ」
その手を取られることはないままに、彼は小さく呻いて立ち上がった。じろりと睨みつける目が罪悪感を誘う。その顔は私の知っているもので、思わずああ!と叫び出しそうになる口を慌てて抑えた。「ったく…さっきのピカチュウといい、なんなんだよ」ぶつぶつと呟く赤毛の彼の隣にはマニューラがいる。
「金銀ライバル…」
「は?何か言ったか」
「い、いえ!なんにも!あ、ところでピカチュウはどっちに!?」
「アンタあのピカチュウの持ち主かよ…知らね。反対側のデッキなんじゃないか」
「ありがとう!」
金銀ライバルを押しのけて通路に駆け込んで反対側のデッキを目指す。呆れた顔で私の背中を見送った彼と彼のマニューラが、深く溜め息を吐いたことには当然気が付くこともなく。
「…マニューラ、お前だけじゃなく俺まで……」
「………」
「なんだったんだろうな、あのピカチュウと女」
不幸なライバル
(2014/03/26)
手持ちといちゃこら回からのスタート