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ざあざあと揺らぐ波の音。もう登ってしまった太陽と、海辺の町独特の潮の香りが漂う空気。
「……きれいだね、海」
ブイブイ!と嬉しそうにイーブイが飛び跳ねた。対してピカチュウは落ち着き無くきょろきょろと周囲を見渡しながらも、私の足にしがみつくのをやめない。「……ホー」「あ!ごめんねヨルノズク。本当にありがとう、ゆっくり休んで」リーフちゃんのヨルノズクは私を背中に乗せたまま、一度も落とさずにここまで運んできてくれた。お礼を言ってボールに戻し、きちんとカバンにしまいこむ。
船の出港の時間まで、あと二十分の猶予がある。イーブイが早く行こうとばかりに船と私を交互に見る。そこで気がついたのだが船の停泊している港への道には露店が並んでおり、ふと目をやるとピカチュウの目線はそれに釘付けになっていた。カラフルな屋台にきらきらと輝く飴細工。確かに森に居れば、あまり目にする機会は無いだろう。あ、でも少し接しただけでも分かるぐらいにピカチュウは大人しい性格だから…遠慮して言い出せないのかもしれない。何より私はまだ警戒されているような感じだし、このあたりで何かをきっかけに仲良くなる方法を模索してみよう!
「イーブイ、船に行く前にちょっと何か買って行こうよ」
「…!」
ピカチュウがぱっと顔を上げた。緩みそうになる口元を抑えながら、不思議そうな顔をして駆け寄ってきたイーブイを抱き上げる。「ほら、イーブイもピカチュウも!なんでも好きなもの買ってあげる」お財布には少しだけど、ジムで家事をしていた時にグリーンさんから貰ったお金がある。…あの時はここにくる前だったら有り得ないような、楽しくて笑ってばかりで…でもそれは全部偽りかもしれないなんて考えたら、やっぱりポケモンとだけ一緒の今の状況は自分が望んだものなのかもしれない、なんて思えてくる。
「……あーやめやめ!私は早く、あの子を探さなきゃ!」
「ブイ?」
「ん、ごめんね。ヨルノズクにも何か買わなきゃね。イーブイとピカチュウは何が欲しい?」
首を振って二匹に問うと、まず真っ先に駆け出したのはイーブイだった。ブイブイ!と店の前でぱたぱたと尻尾を振ってアピールをする姿は素直で可愛らしい。「ようお嬢ちゃん!今朝入ってきたばっかりのヤツだぜ」イーブイに続いてのれんを潜った私に店の店主らしき豪快なおっちゃんが笑いかけてくれる。目の前にずらりと並んでいるのはきのみで、イーブイはこれこれ!と言わんばかりに私の背中を駆け上って肩に飛び乗ったかと思えば、モモンの実をびしっと指さした。お値段も手頃で思わず嬉しくなる。
「じゃあおじさん、このモモンの実ください。それから…私は食べたことないのがいいなあ。おすすめって無いですか?」
「そうだな、これなんてどうだい?」
示された箱に入っていたのはマゴの実で、曲がり方が大きいものほど甘いのだと教えてもらった。ピカチュウもイーブイも興味津々といった様子で見ていたから、多分二匹とも甘いものは嫌いじゃない。というかイーブイは甘いものを好んでいるみたいだ。ヨルノズク…は今眠っているだろうし、起こしたりしない方がいいだろう。
嬉しそうに飛び跳ねるイーブイは朝ごはん前のデザートを手に入れたことに喜んでいる。朝食は確か、ジョウトへと渡る船の中に軽食を食べられるスペースがあるってリーフちゃんが言っていた。
朝ごはんはそれで良いとして、問題はピカチュウだ。さっきからずーっと同じ店を見てるのに私になにも言わない。「ピカチュウ、どうする?何か気になる?」問いかけてみてもぶんぶんと首を振るばかりで遠慮してばかり。意地っ張りなのか大人しいのか性格がわかりにくいなあこの子は…それら全部ひっくるめてピカチュウなのだろうか。
「もう、しょーがないなあ…こっちでいいの?」
「…!」
「わ、こらこら!引っ張らないで!さっきからずーっとあの店見てたからあの店がいいんじゃないかと思ったんだけど…あれ、違った?」
「……」
黙って首をぷるぷると振ったあとピカチュウは恥ずかしそうに俯いて、小さくピカ、と鳴き声を上げた。ずっと追いかけていた目線の先のお店は可愛らしいアクセサリーを並べている露店で、それに対して照れるって…ハートの尻尾を照れくさそうに揺らすピカチュウはまるで恋する乙女さながらに可愛らしい。天使か。なんでも買ってあげたくなるでしょうが!まったく…なんでも買ってあげるんだけどね?お財布の許す限りって条件付きでいいならだけどね!
きみはだれに恋をするの?
(2014/03/09)
手持ちといちゃこら回からのスタート