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「……ナマエ、ちゃん」
「目が覚めた!?良かっ、た」
「あはは、ごめん、ね…」
「無理しないで寝てて。お水飲む?」
「…ん」


結局、リーフちゃんのモンスターボールから飛び出したオニドリルが主を乗せてポケモンセンターまで運んだ。閉まる前の時間帯に滑り込んだにも関わらず、顔見知りとなっていたジョーイさんはすぐさまリーフちゃんの診察にあたってくれた。私はというと変装だとか、そんな事を何も考えられずにただひたすらリーフちゃんの回復を待った。私以上に主を待っているリーフちゃんのポケモンたちが不安げだったからせめてしっかりしないと、なんて思っていて。

結果的に、すぐ目を覚ましてくれたから良かったと心底思う。伸ばされた手に水を注いだグラスを手渡すとリーフちゃんが弱々しく微笑んだ。「ナマエちゃんが"ここ"に来ちゃったのは私のせいだね……」小さく呟かれた言葉に顔を上げる。


「聞いて、ナマエちゃん。………私ね、ポケモンの研究してるの」


**


オーキド博士の元で各地のポケモンについて調査をする、その補佐をしていたリーフちゃんはふとある日、仕事の関係で出会ったシンオウ地方のポケモン研究者から一冊の古臭い本を受け取ったらしい。博士はその日、忙しくて手が離せなかった。暇を持て余していたリーフちゃんはその本を開いた。



その本は創造神とされるポケモンの神話と、時間と空間を操るポケモンの神話、そして"裏世界"に存在するという幻のポケモンと一人のトレーナーの御伽噺だった。主人公である"彼"は何度もそれらのポケモンを探してシンオウ地方を練り歩いたという。

"彼"はとても知識欲が旺盛だった。そして、それ以上に好奇心が旺盛だった。"彼"はひたすらに探し、求めた。若くして伝説を求めて旅をした"彼"が辿りついたのは、空間を司るポケモンだった。既にその時"彼"は老いていた。

けれども"彼"の知識欲は衰える事が無かった。探し求めた幻に、"彼"は知識を望んだ。"彼"は空間を司るポケモンに、さまざまな世界を見せて欲しいと願ったという。最初は相手にすらしなかった空間を司るポケモンも、"彼"と戦い、"彼"を認めると最後の手土産にと様々な世界を見せたという。

"彼"は驚いた。酷く驚いた。ポケモンが見せたのは自分が旅をしてきた世界だけではなかったのだ。中には酷く残酷な光景を映し出したものがあり、穏やかで平和の国の様子を映し出したものがあり、――ポケモンの存在しない世界を映し出したものがあった。

"彼"は問う。これらの場所へ行くにはどうすればいいのか、と。ポケモンは答える。バランスを保たねばならない、と。"彼"は問う。バランスとは?ポケモンは答える。世界は常に一定の均衡を保って成り立っている。例えばお前がこの世界へ行きたいと望むなら、それはお前が元々住んでいる、私達の世界がお前の分、軽くなるのだ。そうするとバランスが崩れてしまう。世界はバランスを崩さないために、お前が求める世界から、罪の無い人間をお前の分、こちらの世界に取り込むだろう。

"彼"は少し考えた。そうして自らの友人達を振り返った。きっと今自分の欲を優先させれば、二度と会えないことを確信した。ここで彼は初めて、知識欲を抑え込んだのである。ポケモンは頷いて、彼は笑顔になった。沢山のものを知った後、大切なものが何か分かったのだ―――…


**


「それで私は、この話を幼馴染に聞かせたの」
「幼馴染って…」
「ファイア。私とレッドとグリーンの、もうひとりの幼馴染」


窓の外ではぱちぱちと星が煌めいていた。ぎゅう、とリーフちゃんがシーツの裾を握り締めたから皺が出来た。「気がついてあげられなかったの」ファイアが追い込まれてる事ぐらい知ってたのに、と呟くリーフちゃんの顔は見えない。


「ちょっとした気紛れになるかと思ってたら、ファイアはいなくなっちゃって、……代わりにナマエちゃんが来てたんだね。あの話は本当だったんだ」



おとぎばなし





(2013/10/10)

だってカモネギってゲームでそらをとぶ使えるしきっと背中に乗れるよむしろ乗ってみたいってずっと思っててふと考えたんですが、もしかしてあれ足に捕まって空飛んでたんですかね…って思って修正しました。
変更後はオニドリルになっています。凶悪?悪人顔?可愛いじゃないですか!!!