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※オリキャラ
「……グリーンさんの、ファン、クラブ」
思わず笑いだしそうになっていた。なんてベタな展開なんだろう、と。じゃあよくある安っぽい恋愛ドラマのように私は暴力でも振るわれるんだろうか?「――なんて、思っていません?」「へ、」再び見惚れる笑顔を浮かべて、どこか寂しそうにそんな事を言われてしまった。いや、確かに考えてはいたけど……
「悲しいですね、こうしてお話を持ちかけさせて頂いた後に私達がファンクラブだと申しますと、皆さん決まってそういった事を考えられるんです。そんな乱暴な事する気も無いのに」
「…無いんですか?」
「人にもよるとは思いまずが、暴力的なものは好んでおりません。何よりグリーン様に迷惑をかけるなんてファンとして失格、いえ慕う権利すら無いと思っていますの」
マジだこの人。ガチだこの人。一瞬だけ鋭い光を帯びたその目に本気を見た。だからだろうか?「貴方が嫌なのでしたら、私と一対一でお話する事も可能です」大勢で押しかけてしまったのは、私一人の判断で間違えた方に声を掛けるわけにはいかなかったからなので、と告げられた理由に思わず頷いてしまった。そうすると、周囲を取り囲んでいたファンクラブの人たちが綺麗なその人と頷きを交わしてどこかに去っていく。「ではナマエさん、行きましょうか」「行く?」行くってどこへ、と問いかけようとすると再び腕を掴まれた。
「こんな薄暗いところで話だなんて嫌でしょう?近所に美味しいケーキを出す喫茶店があるんです」
「へ?」
「ナマエさんはケーキ、お嫌いですか?」
「や、その、好き…ですけど」
「なら良かった!」
今度は本当に悪意も何も感じない、嬉しそうな笑顔を向けられた。「さあ行きましょう!」
**
ふんわりと美味しそうな香りを漂わせた紅茶。ケーキスタンドに並べられたケーキやスコーン、それにクッキーとサンドイッチ。色とりどりのお菓子と透き通った色の紅茶が載せられたそのテーブルに準備されたのは紛れも無くアフターヌーンテイー。
「さあ、遠慮しないでください」
「い、いただきます…」
「どうぞどうぞ、さあ召し上がって」
ゆっくりとカップを持ち上げて、そしてまじまじとカップに見入った。「綺麗ですね、この柄…」「本当?私のお気に入りなのよ」顔を綻ばせた様子に促されるように一口、紅茶を口に持っていく。ふわり、と広がる風味はもしかして花の香り?「ローズティーです。お口に合いませんでしょうか?」「そんな!…とても美味しいです」もう一口頂いてみる。香り高いその紅茶は今まで飲んだどんな紅茶よりも美味しいと感じた。
「私が淹れたんですよ、その紅茶」
ちょっぴりいたずらっぽく微笑んだその美女はグリーンさんのファンクラブの会長、レインさん。連れて来られたお店はレインさんの妹さんのお店で、絶対に普段は入らない!そう言い切れる高級感漂うカフェだった。だって出てきたのがアフタヌーンティー。メニューはコース選択のみだった。レインさんと今頂いているこのコースメニューは、それでもオーソドックスなものらしい。(ちなみに値段は怖くて見ていない)
そちらもどうぞ、と指し示されたので遠慮なくと返してサンドイッチに手を伸ばした。
レインさんはグリーンさんのファンクラブを設立してから三年間、創設者兼会長として拠点をトキワではなく敢えてニビで活動しているという。見ての通りお嬢様で、独自の情報網を所持。バトルスタイルのファン、容姿に憧れるファン、グリーンさんのポケモン達に憧れているファン…会員は男女共にかなりの人数とだけ言われて後は濁されたのだけど、それだけの人数を統率しているというのがレベルの高さを伺える。
「まあ、先程も話しました通りです」
ケーキを口に運びながら、レインさんが少しだけ目線に敵意を滲ませた。「私達は基本的に、グリーン様が女性と付き合う事に関しては肯定的です」私達は付き合ってなんかない、と先程反論したのだが、居候も付き合うに同義でしょう?とさも当然のように返された。確かに恋愛的な意味ではなく付き合っているけれど…「どうして"基本的"なんですか?」問うと、にこりと笑顔が返された。「グリーン様で遊んで頂きたく無いからです」
――テーブルの上に、一枚の雑誌の切り抜きページが音も無く置かれる。
「これが何だかお分かりでしょう?」
「……はい」
まごうことなく、私が大騒ぎした雑誌のグリーンさんのスキャンダル記事だ。「ジムリーダーの元にメディアの見知らぬ異性が現れた場合、どんな関係性であれ必ず騒ぎになります。…私達はこの記事が出るまで、あなたの事を知る機会は無かった。だからいつも通りに少し調べさせて頂いたんです。そうしたら何も出て来ない。唯一、トキワのポケモンセンターでジョーイさんからグリーン様にスピアーの毒を受けた状態で運び込まれ、その後からトキワジムに住むようになったと聞いたんです」おかしいところばかり、とレインさんは呟いて優雅な雰囲気を一変させた。鋭い目線が私を射抜く。
「私は、グリーン様をお慕いしております。だから、貴方がとても羨ましくて妬ましい」
「……っ、私は、だから」
「奪おうとは思いません。そんな度胸は無いからです。それでも譲れないものはある」
「………」
「釣り合い?そんなくだらない事は気にしません。"グリーン様に危険が及んだりしないか"これが一番の行動理由ですよ」
ティータイムとお嬢様
(2013/08/24)
悪意が滲んでたのは、緑さんの傍にいられる夢主に対する嫉妬。しかし会長レインさんは淑女です。夢主がそういった感情に対しては敏感だから、普通だったら気がつかないレベルの悪意。