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外はもう既に、太陽が昇りかけている。
目は覚めているけれども動きたくない。ベッドに潜り込んだままで、まだすやすやと眠っているイーブイの温もりを感じながらぼんやりと考えを巡らせる。


私がこの世界に来てしまった理由を、シャンデラは知っているというのだろうか。――あのシャンデラは確かに私の命を奪おうとしたのかもしれないけど、それには必ず理由があるはずだ。理由も無いのにあんな風に、誰かを切実に求めたりする?この世界に私を呼んだのは、もしかしたらあのシャンデラなのではないかと。そんな憶測に自分で有り得ないと首を振って考えを打ち消す。


「……あの子が従えてたのは、ホウオウ、クレセリア、キュレム……かあ」


ジョウト、シンオウ、イッシュの伝説ポケモン。持っていたのは全てマスターボール。ポケモンと会話が出来るというその発言の真偽は確かではないけれど、あのマスターボールは多分、全部本物だ。現にミュウツーは私の目の前で捕獲されてしまったし、彼女に従っていた三体は、みんなあのマスターボールから出てきたのだとグリーンさん達も証言してくれている。

今私がいるこの場所を、ゲームと同じだと考えてはいけない。私の存在は明らかにプログラムに組み込まれていないものだし、人間の姿になれるシャンデラなんて勿論聞いたこともないのだ。『あなたは私、私はあなた』そんな風に言われた事だけ、はっきりと明確に覚えている。――あの子の事が、気になって気になって仕方がない。


あのシャンデラは、どこに行ってしまったんだろう?


**


「よう、眠れたか?」
「あ、グリーンさん。おはようございます」


ポケモンセンターの食堂に降りていくと、既に朝食を終えたらしいグリーンさんが優雅にコーヒーを飲んでいた。朝食を食べ過ぎたのだろうか、レッドさんはテーブルに突っ伏している。レッドさんの隣でピカチュウも机に突っ伏しており、レッドさんのお腹とピカチュウの腹と頬袋は目に見えて膨らんでいた。なるほど食べ過ぎたんですね、分かります。


「体調はどうだ?」
「一晩寝ただけですけど、大分良いです」


応えて笑顔を作った瞬間、ぐうう、と腹の虫が唸り声を上げた。一瞬呆ける私とグリーンさん。レッドさんの寝息がすうすう、と小さく聞こえているのを認識すると同時に私はばっと腹を抑えた。い、いや、だってそういえば昨日何も食べて無かったし!?しょうがないじゃないかと叫び出したい気持ちでグリーンさんを見やる。案の定だった。


「っく、そ……!こんな……!」
「いやだってほとんど丸一日何も食べずに動けばですね」
「お前、全然、っ!元気じゃねえか!」


必死で笑いを噛み殺そうとしてくれるのは有難いんですけど、息苦しそうですね大丈夫ですかグリーンさん。しばらくグリーンさんは小さく悶えたあと、はあ、と息を吐き出した。ありきたりだが自分の腹が鳴る音を聞かれるって心底恥ずかしいね!赤くなった顔をとりあえずは誤魔化そうと、レッドさんとグリーンさんの間の席に座る。「ま、腹が減ったんなら何よりだ」…声には出さずに頷いておく。食欲があるということは、生きている証拠だ。「朝食は今日はバイキングっつってた。好きなもん取って来いよ」「…ありがとう、ございます」


トレイは向こう、皿は向こう、料理はそっち……グリーンさんが指で示してくれる先を見ず、私はグリーンさんをじっと見つめていた。――とても優しい人だ、彼は。すやすやと寝息を立てるレッドさんだってそう。


―――そんな優しい人たちを、騙そうと決意した心は揺らがない。



ぼくはいまからうそつきになる

(二人と囲む、最後の晩餐でもいい)



(2013/08/11)