五万打企画よりお菓子作り番外


「はいはい注目―――っ!これより、『女子力急上昇!ダークマターとはもうサヨナラ!楽しいお菓子作り教室』を開催しまーす!講師は私リーフと、」
「……ナマエです!」


事の発端は、イッシュの二人だった。


**


「きゃあああああああ!?」
「っ、どうしたナマエ!」
「玄関で人が倒れてますグリーンさんどうしよう!?」
「はあ!?」


ポケモン達と朝のお散歩に出掛けようとした私が見つけたのは、まあ死体と化したトウヤ君とキョウヘイ君、そしてNとチェレンとベルちゃんだった。五人を乗せてきたのだろう、Nのゼクロムが現れた事により謎の人物が顔見知りだと気がついた私(と、グリーンさん)。ゼクロムにはとりあえずポケモンフードを与えて五人を部屋に運び込み、介抱すると一時的に意識を取り戻したベルちゃんがぽつりと「……ダークマター……」と一言残して再び眠りの世界へ。これだけで何があったか悟った私本当に偉い。


「犯人はトウコとメイか」
「……でしょうね」


グリーンさんもどうやら理解したらしく、悟りを開いた目で悪夢にうなされているかのように苦しそうな呻き声を微かに出しながら眠る五人を見つめていた。私は窓の外の空を見上げてああポッポが飛んでる可愛いなー、なんて現実逃避。五人はまあ、死にはしないだろう。私も口にした事があるけどまあ死にはしなかった。だからきっと大丈夫。……悪い夢に脳内を支配され、悪い場合は第二段階とでも言うように少しばかり熱が出て動けなくなる程度だ。命に影響はないはず。


「今回は何が原因でこんな事になったんでしょう?」
「………女子力、上げるんだって………」
「トウヤ君!?まだ寝てなきゃ!あ、もしかして熱が――!」


グリーンさんに話しかけたつもりが、どうやらトウヤ君を起こしてしまったらしい。心なしか顔が赤く息の荒いトウヤ君に発熱を感じる。12時間も眠れば治るのだが、安静にしておくに越したことはない。焦点のおぼつかない目でそれでも上体を起こしたトウヤ君に駆け寄った。額に手をあてるとやはり熱い。


「俺はいいから…っ、他の四人を……」
「グリーンさん!氷をお願いします!」
「分かった、今すぐ持ってくる」


部屋を出ていくグリーンさんを目だけで見送って、トウヤ君をベッドに横にさせる。苦しそうだ…めったに発熱なんて無いはずなんだけど、二人は料理に何を入れたのだろう?とりあえず楽になるように薬を探して来ようと踵を返す。薬はどこにあったっけ、


「…っ、ナマエ、待って!……頼みがあるんだ!」
「だから寝てな――――頼み?」
「うん、……一生のお願い」


普段とまったく違う必死な表情で、私の腕を掴むトウヤ君の目は真剣そのもの。


「――――トウコとメイに、食べられるものを作るスキルを」


**


そう言い残してベッドに倒れたトウヤ君の顔を私は多分一生忘れない。あんな切なそうな表情されたらそりゃもうたまったもんじゃないのである。というわけで五人の世話をグリーンさんとトキワジムの仲間達に任せて私は図鑑所有者の女子達を全員、とあるスクールの家庭科室に収集した。流石に私一人で教えるのは難しいからリーフちゃんも講師役である。事情を話すとリーフちゃんは物凄く楽しそうにOKをくれた。

イッシュの女子二人だけでないのにも理由がある。多分あの二人は独特の方法で調理を行っていると想定がつくから、普通の料理をしている光景を見せねばならない。それも私とリーフちゃんではなく、ヒカリやハルカやコトネちゃんといった普段料理をする姿を見ない女子メンバーのものを。というわけでこの四人は完全に巻き込まれ損なのだが、快く応じてくれたのでこの際気にしない。イッシュ組の命がかかっているのである。(ちなみに今回、運良くダークマターの餌食にならなかったヒュウ君はトキワジムに呼び寄せ看病の手伝い)


「それじゃあ良い?今日作るのは―――じゃじゃん!マフィンです!」


心の中で決意を固めながら、ホワイトボードをびしっと手元の棒で示す。ホワイトボードにはあらかじめ書いておいた作り方と、材料の詳細。隠し味に少量のきのみを入れる事にしたから、それぞれに少しだけきのみを用意してもらった。さあ、どんな反応をする―――かと思いきや、緊張した顔なのはコトネちゃんだけで他の全員は余裕そうな表情。まあハルカとヒカリはポロックとかポフィン作りの経験があるからまあ分かる。問題は何故トウコちゃんとメイちゃんが得意気な顔をしているのかということだ。


「おおっ?トウコとメイは以外に自信有りっぽいね?」
「当然よ!マフィンならこの間トウヤ達に作ったばかりだし。ねえメイ?」
「何度か作った事あるし、なんだ。ちょっと期待してたのに」
「だって、ナマエ?」
「……ちなみに手順はここに書かれてるものと違ったりしない?」
「ちょっと違うかな?あたし達はきのみをメインに作ってるから」
「ん、じゃあ今回は私と同じ手順でやってみよう?」


これは根気が必要そうだな、と三角巾を締め直す。トウヤ君、約束果たせなかったらすまん。


**

(以下、お見せ出来ないので一時的に音声のみ)


「じゃ、まずは卵を卵白と卵黄に分けてください」
「はいはいナマエーっ!ここにベリブの実をあたしはいつも入れるんだけど、大丈夫?」
「ストップ!流石にその時点できのみはやばい!」
「……ねえナマエ、私さっきまで楽しんでたけどこれちょっとやばい?」
「………リーフちゃん、気がついてくれて私すごく嬉しい」


「ハンドミキサーでかき混ぜる時は先にスイッチを入れないようにs」
「きゃあああああああああっ!?」
「へ!?な、何っひゃあい!?何これ?ら、卵白…?ハルカ?」
「ごめんナマエ!先にスイッチ入れたら卵白飛び散っちゃった」
「混ぜる時はボウルの中の卵白に浸けてからスイッチ入れようね?はい、予備の卵」
「ねえねえナマエ、卵白綺麗に泡立ったからフィラの実入れていー?」
「メイちゃんまさかマフィンを激辛にするつもりじゃない…よね?」


「ここは切るようにさっくりと混ぜていきます」
「さっくり……?」
「コトネちゃん、よく見てて。……っと、こんな感じ」
「……こう?」
「そうそう!……あ、目にゴミが入ったみたい」
「ナマエ、コトネがきちんと出来たからってそんな感動しなくても」
「……リーフちゃん、だってちょっとイッシュのお二人の方を向いてみてくださる?」

「トウコさんトウコさん!隠し味用のきのみ、煮詰めておきましたよー!」
「ナイスよメイ!あ、こっちは今混ぜてるとこ」
「えっ?木べらなんかで大丈夫なんですか?」
「だってナマエもリーフもそう言うし…」
「ハンドミキサーの方が早いですよ?いつもやってるじゃないですか」
「そうね、早い方が良いわよね」
「よ、良くないからっ!?ストップ!卵白の泡が潰れちゃって膨らまなくなるわよ!?」
「えー……リーフのけち」
「ケチじゃないわ!」

「リーフさん怒ってるけど大丈夫?」
「ヒカリ、ポフィンじゃないんだから一定方向にかき混ぜちゃだめ」


「型に生地を流し込んだら、少量のミクルのみを細かく刻んで少しだけふりかけます」
「ええー?ミクルのみだけじゃなくてカイスの実とかも入れようよ!」
「オレンのみもモモンのみも美味しいから全部混ぜちゃえば?」
「確かに美味しそうだけど間違い無くアウトだから!」


**


そんなこんなを乗り越え、ツッコミで疲弊した私とリーフちゃんの精神の犠牲の元、マフィンは完成した。そして現在、完成したマフィンを並べたテーブルを囲んでいるのは普段の図鑑所有者メンバー。私とリーフちゃん、それにトウコちゃんとメイちゃんが身守るテーブル中央にはイッシュの六人。逃げ出そうとしたヒュウ君をキョウヘイ君が無理矢理連れてきたらしい。

ユウキ君やミツル君、は目の前のハルカが作ったマフィンに顔を輝かせていた。コウキ君とジュン君も早く食べたいと言わんばかりである。ただ―――イッシュの女子二人に差し出されたマフィンを目の前に並べるトウヤ君達は微妙に涙目。助けを求めるかのようなNの目線にグッドサインで返しておいた。ひたすら目を光らせておいたのだから何も入っていないはずだ。実際、やたらときのみを入れたがるところ以外は二人の腕に何ら支障は無かった。むしろ今目の前に並んでいるマフィンだって見た目は完璧だ。

しかし不安は募る。二人のお菓子や料理に共通するのは、『見た目は完璧中身は大失敗』パターンである。要するに見た目詐欺。でも今回は余計な物は本当に何も入れさせてないし――――…しかし自分の目の前に切り分けられたメイちゃんトウコちゃんペア作のマフィンを一番乗りで口にする勇気はない。迷っているのは誰もが同じ。

―――そんな中、隣に座っていたトウヤ君が私の肩を叩いた。


「ナマエ」
「……トウヤ君?」
「俺、信じてるから。ナマエのこと」


にこりと笑顔を見せるトウヤ君の手には、完璧な形をしたマフィン。
ま、まさか勇者になるつもりかトウヤ君…!「や、やめ」ベルちゃんの声を無視してトウヤ君がマフィンを口に運ぶ。病み上がりなのに何してんだこの子!?全員の視線がトウヤ君に集中する。きのみを満足するまで入れなかったからかトウコちゃんとメイちゃんの視線も何やら不安気だ。トウヤ君が歯型のついたマフィンをお皿に戻した。


「――――――………おいしい」


「………トウヤが、正気を保ってる」

Nの呆然とした声に全員が我を取り戻した。続いてベルちゃんがマフィンを口に運んだ。咀嚼して―――「……うそ」美味しいよ、と信じられないような声が漏れた。それに釣られたのかキョウヘイ君も、メイちゃんもトウコちゃんもマフィンを口に入れた。「……ナマエ凄い」「いつものより美味しい、かも」「……マフィンってこんな味だったんだ」二口目、三口目と口に運ぶ姿を見てホウエン組もシンオウ組もマフィンを口元へ。美味しい、という声がいくつも上がる。


「やったじゃねえか、ナマエ」
「……良かった」


グリーンさんが私の作ったマフィンを片手に話しかけてきた。途端にやってきた安堵感にほっと胸を撫で下ろす。うん、疲れた。正直物凄く疲れた。「紅茶淹れてきてあげる」甘い物を摂取したからか機嫌の良いリーフちゃんが席を立った。私もマフィン食べよう!黄色の型紙をマフィンから外して、一口かじる。


「あ、ナマエ待ってそれあたしとメイがつい――――」


トウコちゃんの声が耳に届いた時には、既に口の中に壮絶な味が展開していた。


「―――――っ!?――――――っ!?―――――っ!?!?」
「ナマエ!?ど、どうした!?」
「あ、ナマエちゃんのってあたしとトウコさんが持ってきたきのみを全部ちょっとずつ入れてみたやつじゃない?」
「はあ!?」


会話も、グリーンさんの叫び声も耳に届かない。口の中に広がったワンダーランドは正に初体験。辛い、苦い、甘い、酸っぱい、渋い―――あらゆる味という味が広がり、爆発する。これ何?口の中で遊園地体験?意識がどんどん薄くなっていく。それは今までに食べたどのマフィンよりも記憶に強く刻みつけられた。


「……わ、私が死んでも第二第三の……マフィンが!」
「は!?意味分かんね……っておいナマエ!?しっかりしろ!」


混乱で何を言い残したのか自分でも分からないまま、私は意識を手放した。




教訓:二人にきのみを持たせてはならない

(おいトウコ!メイ!何入れたんだ!)
(え、ええ!?今日持ってきてたの全部だけど)
(全部ってどれだ?)
(えーと、モモンとクラボとズリとフィラとミクルとオレンとカイスと……)


(2013/05/18)

五万HIT記念フリーリクエスト企画にて、もふり様のリクエスト消化です。
図鑑所有者女子でお菓子作りとのことでしたが、ご希望に添えられたかすごく心配…
発端はすぐに思いついたのですが、なんというか…書いてるうちに自分でも方向性がよくわからなくなりました。第一にマフィンってこんな感じで良いんでしょうか

この後夢主は三日後ぐらいに目が覚めて、凄く心配してたグリーンさんあたりが作ったマフィンを食べる事になるんじゃないかと思います。でも個人的にグリーンさんはマフィンとか上手じゃなさそうなイメージなので、黒焦げだと思います。それを美味しいと感じてしまうポケモンワールド主を見てリーフちゃんは嘆いているんじゃないでしょうか。なんというカオス。

リクエスト有難う御座いました!無駄に長ったるくて申し訳ありません;;
收集つけられる文章を書けるようになりたい……