オラオラメンチ(無意識)
死んだ目をした苗字に、剣城が話しかけていた。「何を話していると思います?」「…ううん、大方…元気出して、とか」「ふふ、甘いですね真名部君」俺の隣でそんなことを話している皆帆と真名部から距離を開けた。一人で森村が興味深そうに二人を見ているのに気がついたから、そっちに近寄ってみる。鉄角君、と小さく声を上げる森村もあの二人の会話を聞いていたらしい。
「なあ、あの二人ってどういう関係だと思う?」
「…うちは、よく…分からない」
「森村は苗字と話したことあるっけか」
「……あんまり」
ふうん、と声を上げると森村が申し訳なさそうな声を出した。――と、そこで九坂がこちらを睨んでいることに気がついて思わずうえ、と声が漏れた。「…どうしたの、鉄角くん」「い、いや…なんでもねえ」いや俺は森村をいじめていたわけでも迫っていたわけでもない。九坂に俺は何故睨まれているのだろう。解せぬ。
「ま、まあとにかくだ。森村は苗字と剣城をどう思う?」
「………どう?」
「ああいうの」
森村は黙り込んだ。そうして、二人をもう一度見た。「…羨ましい、」ぽつん、と漏れた言葉にひとつ頷く。「俺も羨ましい、と思う」初めて会った時の笑顔だとか、飯を食べている時の表情だとか、ドリンクを差し出してくる時だとか。見た目もだが、――特に剣城に向ける表情はとても綺麗で、そして可愛らしい。
「……鉄角くん?」
「いや、なんでもねえ。ほら森村、そろそろ宿舎に戻るバスがくるぞ」
「う、うん」
触れないのは当然、九坂の目が恐ろしいからである。あいつ絶対只者じゃねえだろ…
(2014/02/04)