無題


またやったのか、と包帯を取り出しながら私を睨んでくる船長から目を逸らす。

別に、良いと思うんだよね。戦うのに一回一回船長の許可を取るなんて面倒なことはしたくないし、そもそも動かないと体もなまるし。何よりも命の危険に身を晒すのが嫌いじゃないのが大きいかな。たまらない独特の快感を、常に感じていたいのかもしれない。頬をすり抜けて行く銃弾だとか、肌を薄く切り裂いていく誰かのカトラスだとか、技が綺麗に決まった時のあの爽快な気分だとか。


「言い訳はそこまでか」
「勝手に戦ってスミマセンデシタ」
「…反省してねェだろ」
「だって向こうの船は沈んだ時に爆発したし」
「そういう問題じゃねェ」
「ええ?じゃあ何、私だって別に大した怪我じゃな…うあっづう!?」
「大した怪我だろ。三本折れてるぞこのバカ」
「いったァ……あー、折れてた?ごめん船長気がつかなかった」


やだもう私ったらドジなんだから、と猫撫で声を出してみると何の躊躇もなくつま先に船長の足が降ってきた。同時に腕の切り傷に吹きかけられた消毒液が染み込んで、無意識のうちに顔を歪む。「うえええ…」「吐くなよ」渋々、口元を手で押さえてはあ、と息を吐き出した。私の部屋に充満する、船長が持ち込んだ薬品のにおい。


「傷なんて、舐めてればすぐ治るのに」
「ンなわけねェだろうが」
「この匂いだけで食べたもの全部吐き出しそう」
「……なら舐めて治すか?」
「船長が許してくれるんならそうするけど」


肩をすくめて痛む足をぷらぷらと揺らす。別に、骨が折れたってそれだけで死ぬわけでもない。いずれはくっつくんだし、それまで動かなければいいだけの話だ。「船長」「……」「あのねえ、心配し過ぎだってば」「……」無言で睨んでくる船長の目線は、呆れを孕んでいるから苦手だ。鼻にツンと香るいつもの薬品のにおいが、本格的に吐き気を促している。あー、本当に、やだなあ……船長私吐きそうなんだけど。


「船長命令だ。吐くな。黙って治療を受けろ」
「……はあい」


肩をすくめて渋々ながらに腕を差し出してやる。「船長は本当に物好きだね」「…黙ってろ」腕にぐるぐると巻きつけられる包帯を横目に、自分の治療をする船長の目元をそっと見つめた。ほんとに物好きだ、ってもう一回呟いたら同じように黙ってろって言うのかな。言うんだろうな。船長に言われたら、黙るしかないんだよねえ。

でも本当に船長は物好きだと思う。私みたいなの拾い上げちゃって、ずっと苦労しかしてないんだろうにね。私が"遊んで"帰ってくるたびにぶつぶつ小言を言いながらこうやって包帯を巻いてくれる。居たことはないけど、お母さん、ってそんなものだ〜みたいなことをシャチが話して聞かせてくれたのをぼんやりと思い出す。…お母さん、かあ。


「船長が私にもっと優しかったら完璧だなあ」
「何がだ」
「シャチがねえ、お母さんは船長みたいな人って教えてくれたんだよ、この間」
「今すぐに忘れろ」
「ええ、いいんじゃない?今度から船長のことお母さんって呼ぶから優しくしてよ」
「………具体的にどう優しくしろと」
「好きな時に好きな場所で暴れさせてくれたりとか!」
「それをやめろっつってんのが優しさじゃねェのか」
「なんで?」
「……………」


睨むだけで人を殺せそうな目つきしてるんだから、そんなに私のこと睨まなくていいと思う。しょうがないじゃん?殺し合いの中でだけ生きてるって実感出来る。何を食べたって、どんなに美しいものを目に入れたって、心のどこにも響かないんだもの。

…だから船長、そんなに憐れむような目をしないでよ。







(2015/01/31)


捧げようとしたけど中身があんまりにもアレだったのでボツ化。
夢主は戦闘狂い。ローさんはそんな夢主を捨て置けない感じ。でも夢主は多分ローさんに依存していると思われます。ほんとはもっと可愛い感じになるつもりだったんだ…こっちのが長い気がするんだ…………うわあ