無題
※注意
主殿、どうして私めをこのような場所に閉じ込めるのです。主殿、主殿。どうか、どうか外へ出してくださいませ。……何故、このようなことをなさるのです。私めを閉じ込めたところで、主殿は何一つ面白くないでしょう?ですからどうか、お願いです。私めを外に出してください。主殿、主殿!あなたも知っておられる通り、私めは今日、大事な約束がございます。ええ、今日は……大切な約束があるのです。ああ、非道いことをなさらずに私めをこの牢獄から外へ出してくださいませ!今ならまだ、間に合うのです!
行きずりの冒険者にたぶらかされた…?そんなことはありません!私めは、運命の出会いをしたのです!主殿よ、私はあの人に付いて行きたいのです。――勝手は、承知しております。私が主殿の好意で、主様の元で働けていたことも分かっています。
ですが、私はもう"魔物"でいたくはないのです。あの人の元で、あの人の"力"になりたいのです。あの人を殺そうとした私を、あの人は殺さなかったのです。そして共に行かないかと……主殿よ、このような気持ちは初めてなのです。あの人はもう一度、ここに来てくれます。私を迎えに来るのです。主殿よ、どうか、どうか!許してくださいませ、主殿よ!
―――……!
…………これは、なんの音でしょう。ああ、喉が痛い…あの人はもう来ているのでしょうか。主殿、主殿!どうか、返事をしてくださいませ!っ、ああああ!やっと、やっとお姿を現してくださいましたね主殿!お願い致します、開けてください!私に出来ることでしたら、どのような事でも致します!……ええ、本当です。ですからどうか、私めを許してここを開けてくださいませ。そして、この鎖をどこかにやってしまってください。
…食べる?食べるだけで、いいのですか?この小さな骨付きの肉を?…はい、口を…こちらでよろしかったでしょうか。………。……ええ、飲み込みました。これは何の肉だったんでしょう、主殿。味?…味ですか?ええ、料理人の腕が良いのでしょう。美味だと感じることができました。しかし肉自体は至って普通の、肉のような………?
どうされたのです、主殿。ああ、鎖を…ありがとうございます。もう、理由なんていいのです。しかし主殿、どうしてそんなに楽しそうに笑うのです?私めは何か、おかしな事を申し上げたのでしょうか。…そうではない、のですか?…いえ、やはり遠慮しておきます。きっと私のような者と、主殿では感じるものが…大きく異なるのでしょう。
「まあ、多分そうなんじゃねえの?」
「……ええ、きっとそうですね」
「ンな事ァどうでもいい。名前、手を出せ。良いモンくれてやる」
「良いもの、ですか?」
有り難く頂戴致します、主殿よ。手を差し出すと悪魔の皇子は、三日月の形に口元を歪めて笑った。「お前のお望みのモンだよ、名前」ころころ、と手の中に転がり込んできた二つの玉は血の色に塗れてとても汚い。これはなんでしょうか、主殿。私の目が節穴なのでなければ、何かの目玉に見えるのです。一体、これは何でしょう?良いもの、にはとても…見えないのですが。
「これはなァ、名前。さっきお前が喰った肉についてた目玉だ」
「皇子が直々に肉を、捌かれたのですか」
「いいや?殺した時に、ぐっちゃぐちゃになったんだよ。ったく、俺様も舐められたモンだ」
「……殺した?倒したのでは、なくて?」
主殿は、魔界の皇子の名に恥じぬ狂気に満ちた笑顔を浮かべていた。「ああ、殺してやった。俺様のお気に入りをたぶらかした上、掻っ攫おうとしてくれたんだからな!しかしお前もやっぱり悪魔だ。好きだったんだろ?あの男が!…お前に美味いっつって言われてんだ、あの男も十二分に幸せだろうぜ」
(2014/05/15)
ブブ様がひっどいことになったのでお蔵入り予定だった。これはひどい。