無題
:シューベルトのルート序盤。ネタバレ有り。捏造ばっか。


――随分久しぶりに目を開けた気がする。

すうすうと隣で寝息を立てる名前にはおよそ俺への警戒心が無いらしい。安心しきって体を預けて、自らの疲労を癒すその姿があまりにも無防備で苛立ちが募る。おそらくつい先程まで"あいつ"と仲良しごっこでもやっていたんだろう。あいつもあいつだ。紳士だなんて笑わせる。十二分にライバルは多いというのに、呑気にしていていいのか?あんなの、すぐに横から奪われてしまうに決まっているだろ。名前は他のやつ、…例えば俺と同じように魔王と名乗る織田だとか、そういう奴らの好意にまったく気がつかないまま日々を過ごしている。今のところ唯一"あいつ"と俺が一番名前と近い位置にいるけれどもそれもいつまで続くことやら。ああ、腹立たしいったらない。

叩き起こして寄りかかるなと叫んでやろうかと思ったが、後々に"あいつ"がまた自己嫌悪に陥って最終的に俺の存在を勘繰ることになってしまったら面倒なのでやめておく。そもそも俺の存在は名前と俺しか知らないのだ。ぼんやりと"あいつ"は気がついているようだがそもそも、"あいつ"の頭の中は今、俺の隣のこの女のことでいっぱいだ。名前ちゃん名前ちゃん、っつって呑気に手なんか差し出して。足場が悪いから捕まって、だとか。――俺には出来ない真似をする。


「……まあ、必要とされているのは"あいつ"だが」


名前と賭けをしている"俺"は、"あいつ"と名前と常に歯がゆい思いで見ている。"あいつ"も"あいつ"だ。俺に任せればすぐに名前みたいな小娘は手中に落ちて来るだろうに、"あいつ"は名前を手中に収めたいという様子がない。だというのに常に寄り添っていたいだの、守りたいだの、甘っちょろいことばかり。まあ"あいつ"に可愛いと褒められたときの名前の顔は……見られないわけではなかったとだけ言っておこう。

そう、笑えば見られないわけではない。こうして無防備に眠っている姿も、おそらく"あいつ"からすれば守りたい対象なのだろう。本当に、姫と騎士だなんて笑わせてくれる。腑抜けは考え方も腑抜けだ。だが今、腑抜けは奥で眠っている。

――そして、俺は腑抜けではない。


「……っ、う……」
「小娘、起きろ」
「……シューベルト、さん…?」
「欲張りな小娘。一つ聞いておきたいのだがな、」


名前の胸ぐらを掴んで引き寄せると、とろんとしたままの目の名前がぼんやりとこちらを見つめ返してきた。ヒビさえ入れれば壊すことは簡単そうだと、常に俺は思っている。「お前は俺と"あいつ"と、……」言葉に詰まって、どう切り出せばいいのか分からなくなった。あいつも俺も同じだと言い切ったこいつは恐らく、選ぶことをしないのだろう。強欲な娘は今ここで壊してやろうか?それとも傷をつけてじわじわと嬲り殺してしまおうか。

自然と細くなっていた目を、ゆっくりと見開いた。「…この間、時間をかけて仲を育んで行きたいと言ったな?」「…?はい」「それは不抜けた方の俺か?…それとも、」"あいつ"は気がついているんだぞ、浅はかな名前。"あいつ"に惹かれながら随分俺のことを気にしているお前に。

恐らくこう答えるであろうという予測はあった。「シューベルトさん」寝癖のついた頭で、名前がうっすらとはにかんだ。「普段のやさしいシューベルトさんも、"あなた"も、両方シューベルトさんだって言ったじゃないですか。私はどんなシューベルトさんでも、…あなただから大好きです」ああ、やっぱりそう言い切るんだな、お前は。そんな調子で俺を惚れさせようだとはよく言ったものだ。甘ったるくて吐き気がする。お前には腑抜けな"あいつ"すら勿体無いと俺は思うがな!




(2014/04/23)

メイン火力と盾を両方兼任出来る出来る人ですねーシューベルトさん!性能に文句一切無しでございます!ちなみに魔王モードはいろいろとあざといので紳士モードと主人公を見守るのが楽しいです。