アカシアの花咲く道でキスを
黒木君はかっこいい。
スポーツができて頭が良くて、クールでみんなの人気者。そんな彼に想いを寄せる女の子は数知れず。かくいう私の友人もその一人となり、最近はクラスの女子達と調理実習で作ったクッキーを誰が黒木君に一番に渡すのか、なんてことで争っていた。表立った争いではなく目線と目線の戦いは傍目から見ていても相当に恐ろしかった。
友人は私に自分を応援してくれと言った。「名前、黒木君と結構喋ったりしてるもんね!なにか分かったら一番に教えて!」もじもじと目線を彷徨わせる彼女はとても可愛らしい顔をしていた。もちろんだよ、と笑顔で応じたのだが可愛らしい彼女に私は幻滅もしていた。最近私と親しくしていたのはもしかしてこれだったのかしら、なんて。
「…ってことなんだけど、どうよ?黒木君」
「黒木君とか気持ち悪いからやめろ」
「はーいはい。どう?人気者の智樹くん」
「……まじやめろ」
「良いじゃん人気者で。みーんなこぞって智樹のこと好きなのに」
よりどりみどりな状況で、彼女や好きな人やらを作らない私の隣を歩く人気者の黒木君こと智樹は、私の顔をちらりと横目で見て舌打ちをした。「な、なに?」「……別に」ぼそりと返答した智樹は心底うざったそうな目で私を見てくるから解せない。別にって何よ別にって。ちなみに智樹とは気が合う友人というだけで、一部の女の子(友人含む)は私が智樹のことを好きなんじゃないかと疑っているようだけどそれだけは恐らくお互いに無いと思うので安心していい。少なくとも私は智樹を友人以上に見ることはない。
智樹は"そういった話"を酷く面倒臭がった。曰く、『女子がどうしてそんな話題で盛り上がれるのかわからない』らしい。でも男子だって似たような話をするでしょうと返したら、女子ほど複雑に込み入っているわけじゃないからと返された。確かにそれは同意できるところがある。恋する乙女というのは可愛らしいと同時に酷く恐ろしいものだ。デリケートだから扱いに困るし、且つ構ってやらねばそれまた爆発しそうになるという恐ろしさ。水面下の戦いに陰口の囁き合い、噂が噂を呼んで派閥が形成される。
「……まあ、智樹が"特別"なんて作ったらそりゃ恐ろしいことになるよねえ…」
「名前はさ、最近いつも一緒にいる…あいつとかどう、って聞かねえの」
「聞いたって智樹困るだけでしょ?」
「…そうだけど」
「なに、聞いて欲しいの?返答はどうであれ良い風に誤魔化して伝えることになるけど」
「少しはオブラートに包めよ」
あ、良くわからないけど智樹の機嫌が少しだけ良くなったような気がする。「大丈夫!智樹の前だし別にオブラートなんていらないよ」どうせ表面上の付き合いだしねえ、とひとりごちると智樹がすうっと目を細めた。「お前、そんなのでいいのか」「いいよ?別に気にしない。何より私の友達はほら、智樹がいるじゃん」別に女だからといって男子の友人を作っちゃいけないわけじゃない。一緒にいると気が楽で、適当に喋って、こうやって一緒に帰宅路を歩けるんならそれでいいと思うのだ。
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「んじゃね!」
ひらひらと手を振って曲がり角に消えていった名前を目だけで追いかけて――思わず溜め息を吐かずにはいられなくなった。「……はあ」やけに重く感じる鞄にも溜め息が出そうだ。まったくどうして、名前は俺を友達以上に見ることがないのか。
過ごした時間は一年と少し。最初はやけに戸惑ったのだ。屈託なく最初から笑顔を向けて、対等に喋ってくる名前を眩しく感じた。やけに気が合い、気が付けばお互いに普通の友人になっていて――ずっと一緒にいたいと思った瞬間、俺の中には名前への気持ちが生まれていたのだと思う。それに気がついた時、名前がどうしたって俺に友達以上の感情を持つことはないことにも気がついて、泣きたくもなったけれど。
寄せられる好意に気がつきつつも、全て見て見ぬふりをしていたツケが回ってきているのだろうか。名前は俺の気持ちにまったく気がついていない。わかりやすくアピールをすれば距離を置かれるのは目に見えている。動くに動けない俺はなにかに縛られているような感覚すら覚えている。どうすれば、どうすれば俺の気持ちは届くんだろう。
アカシアの花咲く道でキスを
(2014/03/20)
:DOGOD69様
久しぶりの私モテ!智樹君は需要あるみたいなのにどうして増えないんですかね
あと連載候補だった智樹君の片思い話です。多分続かない