秘密の午後
(天ルシ番外みたいなもの)


「ねえねえ、…ルシファーは綺麗だよね」
「は、」


思わず呆けて息を吐き出した。「…綺麗?」「うん。天使だからかなあ…目とか髪とか、翼とか」まじまじと見つめてくる名前は多分、無自覚なのだろう。なんて質の悪いマスターなのだろうか。目をそらすわけにもいかないからそのままにしていると、そっと指先が伸びてきた。―――こういう時に限り、ロキはこの場にいない。


「きれーな髪…」
「……名前の髪だって美しいだろう」
「私のは人間の普通の髪だよ。ルシファーのはなんだか神秘的できらきらしてる」


恥じらいもなくそんなことを堂々と言えるのは幼さも入り混じっている故か。覗き込まれた自分の瞳はそんなにも輝いているのかと不思議に思う。「……」「…ルシファー?」そっと、自分も覗き込んでみた。もう少し近づけば唇と唇を触れ合わせることだって出来るぐらいの距離に顔を近づける。不思議そうな名前の顔はまったくそんな事を理解していない。ああマスター、私は天使という名目の上に我慢を強いられているようだ。


「名前の目もとても澄んでいる。綺麗だと私は思うが」


主の両耳を包み込むようにして、優しく囁いてやる。

一瞬で赤くなった名前の表情に少し笑いが漏れた。「る、ルシファー…っ!」近い!近いから!とこんな時になってようやく自分の行動の迂闊さを思い出したらしい名前が焦り始めた。主従関係であるとはいえど、私達は縛られていない。


「どうしたんだ、顔が赤いが」
「違、これはそのっ!」
「―――見惚れでもしたか」


普段は狡知神に遅れを取っているのだ。これぐらいは許されるだろう?

微笑んでから、宙を彷徨っていた名前の腕首を掴んでやった。ひ、と上げられた声は怯えというより混乱に近い。大丈夫、私が大切な女性を裏切るはずがないだろう。


―――――これはちょっとした戯れに過ぎない。



痕跡を残すのも一興だろう。が、そろそろロキ達が戻ってくるような気がした。それに何より、名前をこれ以上怯えさせるのは流石に不味いだろう。


「名前、私はいつでも貴方を敬愛している」


まずは言葉で、思考を奪う。今だけは、貴方の瞳は私だけを映しているのだから。言葉を失ってぱくぱくと口を開いたり閉じたりする主の首元に触れるだけのキス。ぴくり、と肩が動いた反応があったから、もうそれだけで満たされてしまった。



秘密の午後



(2014/01/16)