05


次の日。

名前は学校を休んでいた。体調でも崩したのかと思っていたら、案の定体調を崩したのだと連絡が入った。空っぽの席に虚しさを感じる。

――名前で癒されようと思っていたからだろうか。


「………ったく、」


変な障害物のせいで真っ直ぐに好きなやつを追いかけられない。苛立ちの原因は全てあのストーカー野郎のせいだ。…野郎?もしかして女だったり?どちらにしろ俺の天敵には代わりないだろう。

帰りのホームルーム、名前に授業のプリントと連絡用のプリントを届けてくれる人間を担任が募っていた。誰も挙手しない。……今日は部活が確か、グラウンドが使えなくて休みなんだったっけ。ゆっくりと手を挙げると、担任が意外だと言う顔をした。「黒木、頼んで良いのか?」俺の名前が出た瞬間にクラスメイトがこちらを振り返る。別に面白くもなんともないだろ。普通だっての。

(黒木が苗字にプリント届けに…!?)
(うわ、黒木君優しすぎ!)


**


担任から簡単に地図を書いてもらい、自分の家とは逆方向に歩き出す。割と学校から近い位置にあるという名前の家には思いの他簡単に着くことが出来た。


「……ここ、でいいのか?」


簡素な一軒家は大分古い。見上げると二階建てであることが確認出来た。緊張しながら何度目か分からない表札の確認を行って、チャイムに手を伸ばす。―――ぴんぽん、とレトロな音が響いたと同時に少々お待ちくださいー、と家の中から声が聞こえた。次いで、ぱたぱたと走ってくる音。ガラガラガラ、と引き戸が開かれる。


「すみません、集金の予定って明日――――――っ!?」


――――現れたのは名前本人だった。明らかに元気そうな、学校で聞く声とは違うはきはきとした物言いに驚きを隠せない。つか集金かと思ってたのかよ。律儀に印鑑持って出てくるなよ…パーカーにジャージというラフな服装は、普段制服姿しか見ないからかやたらと新鮮に映る。惚れた弱みというのは強いようで、どんな格好でも可愛らしく見えてしまうのは完全に病気だよなあとどことなく思った。「っく、くろ、くろ…!?」一瞬で喉を詰まらせたかのように声を小さくして家の中に逃げ込もうとする名前にプリントを差し出す。逃がすはずないだろこのバカ。ギギギ、と壊れたロボットのように動きを止めてゆっくりとそれを受け取る名前。


「……プリント…?」
「随分元気そうだけど」
「や、それは、その!」
「サボリか」
「………はい」


気まずそうに肯定した後、プリントを胸に抱えて後ずさりする名前。「なんだよ」「……なんでもない、です」嘘つけ、――明らかに俺から距離置こうとしてるだろ、それ。「俺、何かしたっけ?」びくり、と名前の肩が揺れる。「な、なにも!黒木君はその、えっと、何も悪くないんです!」半ば叫ぶようにした名前の肩は小さく小刻みに震えていた。無意識のうちに、俺はこいつに何をしたと言うんだろうか。



怯え



(2013/11/06)