隣の堕ルシさん3
※オリ男がいます


「こんにちはヘラさん、シュンいる?」
「あらァ名前チャン。マスターなら部屋に引きこもってるわよォ」
「機嫌の悪さのレベルはどれぐらいかなあ」
「そうねェ、あれはルー君に家出されてスネてるだけだと思うわァ。まあ私達の目の前でルー君を侮辱した、って反省はあるんじゃなあィ?」
「うーん……なら私も後押しぐらいでいいかも。ってヘラさん!?」
「やっぱ名前チャンかーわいいわよねェ…ンふ」
「ひゃ、ちょ、ヘラさんっ!胸!胸が!」

「……お戯れは其の辺で」


ぐい、と二人(正しくは一人と一匹)の間に割って入るとヘラさんはとても不服そうな顔を、名前は少しほっとしたかのようにありがとうロキ、とそれぞれ私に言葉を放った。名前の頬が微かに染まっているのはヘラさんの豊満な胸をダイレクトに押し付けられたせいだろう。「名前」「な、なあにロキ」「自分の胸に手を宛てるのをおやめなさい」虚しくなるだけですよ?ヘラさんと比べるなんて、敵うのはフレイヤさんぐらいしか思いつかないですし。

改めて顔を正面に向けると、艶めいた笑顔を浮かべるシュンさんの家の主戦力の一角、ヘラさんが堂々と佇んでいる。どんな男でも篭絡させてしまいそうなその体つきと衣装は目のやり場に困るのだが、本人も名前も気にしていないのは何故だろう。ルシファーなんてここに居たら破廉恥だ!だのけしからん!だの言い出しそうで、その様子を想像するとほくそ笑まずにはいられない。「楽しそうねェ〜」「ええ、とても」ヘラさんは顔の整った人を好んでいる。ルシファーを連れてくればきっと抱きついてくれることでしょう。戸惑うルシファーの顔は見ものでしょうねえ…どうやって連れて来…「ロキ、何考えてるの」おやおや名前、随分と怖い顔ですね。あ、そうか。「別に名前の胸の事じゃないでふぐっ!?」「胸の事は言うな!」エルボーを横腹は駄目ですって!

一瞬むせたが名前の細腕だ。そんなにダメージは大きくない。とにかく、ここがシュンさん……家出をしてきたルシファーさんのマスターの家である。うち(名前のボックス)とは違って(魔法石の力で)そりゃもう豪邸。力があると一目で分かるモンスター達がちらほらと邸宅の中を徘徊している様は見ているだけで気後れしそうです。名前は何故こんな家に憧れないんですかね?


「んー、私は今いるみんなと暮らせるだけの今の家が気に入ってるよ」
「………それなら良いんですけど」


マスター、あなたそれは反則ですよ?


**


シュンさんと言う人を一言で表すとどうなるのだろう。顔はとても整っているが、かなり残念なタイプなのは間違いない。その癖実力はあるし、名前の幼馴染だ。人間は馴染みのある間柄の人間をとても大切にするという。事実名前はいくらシュンさんに言い寄られても馴染み故の冗談だと思い込んでいるのでシュンさんの世話を焼くのだ。(これは基本的に冗談めかした告白しか出来ないシュンさんのせいでもある)


「ロキ、すごく怖い顔してる」
「なんの事でしょう?」
「ううん…なんでロキはシュンが嫌いかなあ」
「嫌いではないですよ。いけ好かないだけで」


主に名前にこうやって気にかけて貰っていること、とか。自らの主を一番に独占したいと思うのは従者の我儘に他ならないのだろう。本当は他の誰にも見せたくなんてないんですけれどねえ、とぼんやり考えていると広い広いお屋敷の最上階、一番広い部屋の一番大きな扉の前に私達はいた。コンコン、と名前が部屋の扉を叩く。


「シュンいるー?」


掛けた声に反応は無し。が、名前は何かを感じ取ったらしかった。「よし居る。ロキこれ開けて?」「え゛っ」私に嫉妬する暇すら与えてくれないんですかマスター!どうして居るって断言出来るのか、とか!しかし主がお願い、と上目遣いで見上げてくるので私はすぐに折れてしまった。今度から浮くのはやめようとついでに決意。あれは兵器ですね……

仕方無しに扉を開くため、天井近くの小窓をちらりと見やる。風通しのためにだろう、開いている窓がちらほらとあった。ふわりと浮き上がって窓から部屋に侵入。部屋の様子を見渡して思わず溜め息を吐かずにはいられなかった。天蓋付きのベッドの真ん中、こんもりと小さな毛布の山が一つ。


「シュンさーん、この扉って内側から鍵かけるタイプですよねー?」
「〜〜〜っ!」


容赦なく毛布を剥いでやると、心底驚いた顔をしたシュンさんがいた。ああ、面白いものが拝めましたねー。にやりと笑ってやると一瞬で頬を羞恥に染めて「ロキ!」と怒鳴るシュンさん。からからと笑ってやると毛布から飛び出して掴みかかって来そうになったので浮かび上がってさらりと避ける。


「何しに来た、つかどこから入った!」
「私はただの付き添いですけれども」
「……付き添い?」


状況を把握したのだろう。ちらりと目をやった先の扉に歩み寄り、鍵を外すとゆっくり扉を開く。「やっほー、いじけ虫くん」「っ、うぜえ…!」いたずらっぽい顔を浮かべて馴染みのよしみでそんな軽口を叩く名前の姿に、悪態を付きつつ頬を染めるシュンさんに苛立ちを感じるのでつい足元に転がっていたクッションを投げつけてしまう。「おいロキ!何すんだ!」「苛立っていたのでつい……私の主を見てにやにやしないで頂けますか幼馴染さん」「お前こそモンスターのくせに」「ほお、"ただの"幼馴染さんの癖に?」「ロキ、お前はいつもいつも…!」面白いぐらい簡単に挑発に乗ってくれるシュンさんはからかい甲斐がありますねえ、本当。


「ロキ、シュンとじゃれないでよ」
「じゃれてませんよ冗談じゃない」
「そこは同意する」


ただちょっと目と目で語り合いつつ取っ組み合ってただけですし。








(2013/10/16)

もうちっとだけ続くんじゃ…