誰も気がついてくれやしない
※猫宮のことが好きなモブ女子。報われない


猫宮は、大神さんが好き。

それを知ってしまった時、私は嗚咽を漏らしながら泣いた。ずっと彼の事を想っていて、彼も私に笑顔を向けてくれるようになったのに……彼は私を恋愛対象としてなんて見てくれない。それが疑惑から確信に変わってしまったから。


『名前、俺様なんかと友達になってくれてありがとうな』


その言葉を貰ったとき、嬉しさと同時に自分の中で何かがガラガラと崩れていったのを覚えている。好きだから、友達以上の関係になりたい。その言葉をついに彼に伝えることは出来なかった。猫宮の大神さんへ向ける視線の熱さを、その目の優しさを知ってしまったからだ。「猫、宮あ……!」ねえ、お願いだから助けてよ。人助けが趣味なのに、友達は助けてくれないの?私はあなたにしか助けられないんだよ、猫宮。

涙が溢れて止まらない。「好き、好き……っ!」好きなのに、叶わない。好きなのに、敵わない。自分の身さえ案じることなく、猫宮を助けてヒーローになった大神さんに比べ、弱虫で臆病で…こうやってこそこそ泣くことしか出来ない自分。良いとこなんて何もなくて、その上可愛らしさの欠片もないと言われる私。対して、強くて格好良くて…それなのにあの森野君と居ると、とっても女の子らしくなって可愛くなる大神さん。

差は歴然だ。第一に目立つところが無いんだもの、私には。大神さんや猫宮が"表舞台"に立つべき人間だとしたら、私はその裏舞台にもきっといない。その舞台を黙って見上げる一般人の一人だ。猫宮は絶対に振り向かない。あの笑顔は私だけのものじゃない。彼は特別扱いをしない。私への対応が特別なものだった時なんて、今までに一度もなかったのだから。


「……好きなんだよ、猫宮……ぁ……っ」


ぽたぽた、と。手に持っていた写真に落ちていくのは庄屋さんから買った猫宮の写真。彼は普段見せる不敵な笑みとは違い、本当に嬉しそうな……心からの本当の笑顔で笑っていた。これはどこで、と庄屋さんに問うと大神さんと一緒にいるときの猫宮だと静かに答えられた。涙を流しながらも、その写真を買わずにはいられなかったのは何故だろう。

あの不敵な笑顔に心を全部持っていかれて、それは彼の作った"仮面"で。その仮面の下の素顔が絶対に私に向けられないと知った瞬間に、傲慢な私は我慢できずに大神さんを憎んでしまうのだ。彼女の事は嫌いでもなんでもないのに、ただそれだけで彼女を恨んでしまう。そんな自分を更に憎く思う。好きな人の全てが欲しいと思うのは思春期故の独占欲なのだろう。大人ならきっと、仮面だけでも我慢出来るのだろうに。



誰も気がついてくれやしない



(2013/06/24)