ツンデレボーイと作戦会議
「ナマエはヒビキの事が好きなんだろ。誤解されたままでいいのか」
「…でも、」
ナマエは言葉を詰まらせた。そりゃあ良いはずがないことぐらい俺だって分かる。が、実際のところナマエはヒビキに撤回してみせる勇気もないのだろう。元々コトネの影に隠れがちだし表に言葉をあまり出さない。そもそもどうやってヒビキ君に事情を説明すればいいの?コトネちゃんが勝手に突っ走ったから違うの、って言うのは不自然だし、…とぶつぶつ呟くナマエはまた考えたことを口に出しているようだった。「そもそもどうしてヒビキ君に誤解されてるのが嫌かというとシルバー君の言うとおり私がヒビキ君のことを好、」ここまで声を漏らしたあと、はっと目を見開くナマエ。
「えっ!?なんでシル、えっ、は!?」
「……俺はコトネみたいに鈍くないからな」
いや、今ここで今更かよ。気がつかないコトネもコトネだが、ナマエは明らかにあの時ヒビキを目に入れて顔を真っ赤にしてただろ…「違う!違う!絶対違うの!ただヒビキ君の笑顔が!」なるほど、あいつのあの純粋な笑顔か。ヒビキの笑顔はワタルや他の奴らのみならず、ナマエのハートをも射抜いたらしい。好きなのか、と煽ってやると違う違う違う!と顔を真っ赤にしたナマエが俺に詰め寄ってきた。うわこいつ面白い。
「まあ今はそんなことどうでもいいんだけど」
「どうでもよくない!」
「今日は随分と声が出るな」
「いや、だから、そのね!?私はヒビキ君を、いや、あの!」
いい加減五月蝿いと思ったのでボールからアリゲイツを出してナマエを睨んでもらうと変な声(ふひえ!?とか、そんなの)を出してナマエが動きを止めた。本当に扱いやすいやつである。(かつ、顔見知りでそれなりに話の通じる人間)噂になった相手がナマエで今はホッとしているなんてことはともかく、このままだと俺だって面倒臭いのだ。きらきらと目を輝かせることが常だったあいつの顔が泣き出しそうだったのを思い出すと酷くイライラする。ああ本当にもう、ヒビキといいコトネといいナマエといい、…あいつといい面倒なやつばっかりだ。どうして俺が苦労をしなきゃならない…
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「あああっナマエ!シルバー君とどこ行ってたのよ!」
「コトネ、揺らさないで。ほら落ち着いて」
「な、なにその余裕…!まさかナマエ、勢い余って告白しちゃった!?」
「そんなことあるわけないでしょうが」
席に座るなり詰め寄ってきたコトネをあしらいながら次の授業の教科書を探る。シルバー君も戻ってきたようで、彼はヒビキ君に捕まっていた。――内容は色恋沙汰ではなく次のバトル実技の授業のことのようだけれども。
何があったの、ねえねえ、とコトネに次いでクラスの目立つグループの女の子達が詰め寄ってきた。「とうとう告白したの?」うわあ、と思っているうちに取り囲まれてしまう私の机。正直こうなってしまった彼女らは少し苦手である。他人の不幸は蜜の味というタイプではないけど、噂話が大好きで大好きでたまらない上に一度何かを耳に入れるとそれを拡散してしまう。
「で!?」
「だから、何もなかったんだよ」
「何もないって…だって手握って教室から攫ったんだよ!?」
それはその通りなのだけど、だからって「何もないなんて有り得ない!」「何もなかったなんて言わせない!」と目を輝かせるのはどうかと思う。「み、みんな…そんなに根掘り葉掘り聞くのは…」あら珍しい、コトネちゃんが周囲のハイエナっぷりに引いていらっしゃる。まあそんなコトネちゃんの声は彼女らには聞こえないようでどうなの!?と問い詰める私への圧迫は変わらない。
ぼんやりと声を聞き流しながら先程のことを思い返すと、ヒビキ君と戦術について言葉を交わすシルバー君と一瞬だけ目が合った。――お互い口には出さないが、目だけで言葉を交わせるような感覚だ。シルバー君の『お互いに面倒』の言葉の意味が分かった瞬間に私達は同志だった。結んだのは親友の契り。
「ねえ、ナマエちゃんってば!」
「あーうん……私の好きな人はシルバー君じゃないからね?」
え、と呆けたような女の子達に次いで違うの!?とコトネちゃんが目を見開いた。あ、ちょっとやらかしたかもしれない。
ツンデレボーイと作戦会議
(2014/03/10)
かなり時間が空いてしまいました…シルバー君のお相手は次回のヒロインにしたいなとか