気になるだけで言えやしない

『ナマエさんが羨ましいよ』


「………」
「ナマエ、お前考えごとしてんのか?」
「………うー……」
「やめとけ。何も考えるな。ハルカがすっげえビビってる」
「…………あー……」
「かく言うアタシもすっげえ怖いからマジで。雨振りそうな気がする。この間から調子悪いんじゃないか?ほら体育で怪我した時!ガラじゃねえよお前が!血とか!何があったんだ?あたしに話せる事なら何でも話せよ!つかマジお前最近蹴りのキレも若干薄らいで来てるぞ!今度大会だぜ分かってンのか!?お前は何も考えずにただサンドバッグを蹴ってれば良「うるさいカガリちょっと静かにして」…お、おう」


はあ、と漏れたのは思わずの溜息。カガリが静かにあたしの席を離れるのを感じた。というか遠巻きにみんながあたしを見ているのを感じる。居心地が悪いけれども今更教室を出るのも面倒なのでもう放置だ放置。
人が悩んでるのがそんなにおかしいか、と思う。あたしだって普通に人間だ。そりゃ普段はバリバリの体育会系ですけれども。格闘系関連部の総主将やってますけれども……

ああ、もう少し普段から使う脳ならばあの時ミツル君に上手く言葉を返せたのかと今でも思う。あの後あたしは何も言えずに、心配して迎えに来たハルカに連れられて教室に戻ってしまった。ミツル君は笑顔で手を振ってくれたけど、それも心が痛むだけだった。
あたしはなんと彼に言えば良かったんだろう?"羨ましい"と言われて……自慢にならないがあたしはめったに病気になんてならない。数年に一度少し熱が出るか出ないか、レベルの健康さを誇っているし、動く事だって大好きだからいくらでも体力を作る事が出来る。(結果、筋肉バカ女の称号を得たのだがあたしの筋肉はそんなに目立たない。凝縮された力は無駄に巨大化しない、ってレンブ先生は言っていた)

『強いし格好良いし、運動神経も学年一』

格闘系の部活の総主将という立場には徹底的な強さと多くの人材をまとめられる人間が求められた。力と運動力、それに格闘ポケモンとの連携も。あたしは多くの人間をまとめる力が元々あったらしい。力と運動力は最終的には先輩達や男の子に負けてしまうだろうとは思うけど、女というハードルを乗り越えてひたすらに、ただひたすらに鍛え上げてきた体。何故鍛えたか。強くありたかったからだ。小さい頃、『世界一強くなりたい』と言ったあたしをバカにした男の子達より強くありたかった。

そう、どうしても越えられない"性別の壁"。男の子が羨ましくて仕方が無かった。


『羨ましいよ』


「……何で、あんな顔……」

だからまさか、男の子に羨ましがられるだけで……しかもあんなに切なそうな顔で、自分にとって"当たり前"だった事柄を羨望の目で見られるなんて。
こんな筋肉バカと言われるようになってからは男の子達には怖がられ避けられ破壊神と呼ばれていたのに慣れてしまったあたしは、ミツル君の反応だとか、……気持ちだとか。病気のせいで運動が出来ない体を持つその姿に何か、言葉じゃ言い表せられない感情を抱いてしまっていた。

同情ではない。同情なんて安いものでは決してない。


(ミツル君と体育の授業でソフトボールしたい、って言ったら)


彼はどんな反応をするんだろう?


気になるだけで言えやしない

(でも、保健室に顔を出す回数を増やそうと思った)
(ミツル君の事をもっと知りたいと思った)

(――病気が治るのか、知りたいと思った)


(2013/04/14)

何故私は武闘派なヒロインが好きなんだろうか