6パ鍋


「あーっハッサン!それ!あたしの!」
「こういうのは早いモン勝ちなんだ、よっ!」


鍋に次々と放り込まれていく肉、野菜、肉。野菜、野菜、肉、肉、肉。野菜。肉。

見ているだけで腹が満たされるような気がして、テリーは器を持ったまま、ハッサンとバーバラが肉を奪い合う様子をぼんやりと遠く眺めていた。薄切りのうまく熱の通った、やわらかい肉をそれぞれ自分のものだと主張しあうハッサンとバーバラの奪い合う肉を鍋に入れたのはテリーだったのだが、そんなことを二人の間に割って入って主張しようなどとは思えない。気圧されて終わりだと、テリーの直感が告げている。


「テリー、食べてる?」
「…食べているように見えるのかお前には」
「あら不機嫌」
「不機嫌じゃない。…疲れてるんだ」


テリーの隣に人の座る気配があった。振り返らずともそれが誰だか分かるテリーは、空の器を見せつけその人物――ナマエが鍋の周辺の状況を把握し、失笑するのを黙って聞いていた。「まあ、いつもだよね。鍋が戦争なのは」「…はあ」ナマエの言葉に思わず、漏れた溜息にはテリーが、ゆっくり食事をしたいという意思がありありと浮き出ている。ふたたびナマエは苦い笑いを漏らし、テリーと共に鍋を囲む仲間たちの様子を眺めることにする。

ミレーユは先程まで、ナマエと共に野菜を切り分けていた。丁度今は切り分けた野菜を大皿に盛っているところである。レックは争うバーバラとハッサンから距離を取り、絶妙な箸捌きで肉を奪い合う二人を出し抜き肉を勝ち取り、勢いに圧倒されるチャモロの皿を埋めていた。鍋に次々と食材を放り込んでいるのもレックだ。鍋は世話焼きなレックの兄のような性格がよく出る食事だとナマエは思う。普段は隠れている、しっかり者なチャモロのたじろぐ姿が見られるのもなかなか珍しい。アモスはちびちびと酒を飲み、まったりとマイペースで寛いでいるので鍋の争いには不参加だ。


「テリー、まだ慣れないね」
「大勢で同じ鍋を囲むってのは、無かったからな」
「でももう何度も食べてるよ、一緒にごはん」
「勢いと気合いが違うだろ、あの二人と」
「まあそのうちハッサンもバーバラもお腹いっぱいになるでしょ」
「……母親みたいだな」
「えっテリーのお母さんになったつもりはないけど」
「いつ誰がそんなことを言ったんだ。斬るぞ」
「しょうがないなあ、お母さんがテリーのためにお肉を取ってあげますよ」
「頼んでない。余計なことをするな」
「まあまあほら貸して」
「…お前達は本当、強引だな」


テリーの皿を奪い取ったナマエはテリーの諦めたかのような声を聞きながら、目の前で戦っている箸と箸の好戦を見つめる。「…!」「…!」レックのように気配を消すことのできないナマエは、新たなライバルとしてバーバラとハッサンの視線に捉えられる。


「ナマエ、いくらナマエでも負けないよ!」
「俺は消耗が激しいんでな、譲れねえぜ!」
「望むところ!」


――かち合う視線!

即座にピオリムで強化されたバーバラの箸が伸びてきたところを、ナマエは盾替わりに構えたテリーの器で弾き返す!その隙を突き鍋の中で揺蕩う薄切り肉を捉えようとしたハッサンの箸を交わし、一瞬のうちに薄切り肉を箸で捉え、テリーの器の中に放り込む!


「上達したな、ナマエ」
「レック師匠には敵いませんや」
「ぐううう…!ならそこの野菜を、っ!」
「だめだよバーバラ、これも私がもらうからっ!」


「…テリーさん、仲間ですね」
「やめろチャモロお前」


次々と鍋の中の煮えた具材を器に盛り込んでいくナマエを眺めながら、隣に寄ってきていたチャモロの言葉を強く否定できないテリーは唸る。鍋に強い男にも、なりたいものである。


20161201

いやほんと正直何を書きたかったのかわかりませんが6パで鍋