ヤーンと待ち合わせ
「おーい、ナマエ〜」
「わああああ?!」
「なんだよ、いきなりデカい声出して〜」
「あ、のね!?不意打ちって知ってる!?」
「そりゃあな〜」
「確信犯だ…!」
穏やかなジュレットの町、柔らかな日差しの昼下がり。
ナマエは酒場の主人の口利きで紹介して貰った、とある依頼を請け負うためにジュレットの街角に立っていた。普段はそれこそ持ち歩く武器を道具袋に仕舞い込み、メギストリスで借りてきた指定の可愛らしい衣装に身を包んで。そんな慣れないフレアスカートの裾に緊張しているナマエの後ろから、気配を消し忍び寄り肩ポンで声を掛けてきたのはヤーンである。普段とは違ってドレスなのに良く自分だと分かったな、とナマエは素直に心中で驚く。
「珍しい恰好してんじゃん〜」
「まあね。今日はパーティ会場に紛れ込んでの護衛だから」
「護衛〜?」
「まだ迎えが来る時間までもう少しあるんだけど、緊張しちゃって」
こんなに早く着いちゃった、と頬を掻いたナマエの髪はサイドに纏め上げられ、ヤーンの目の前でゆらゆらと揺れた。それを反射的に目で追いかけたヤーンにナマエが気づくことはないようで、本人はやはり少し短いと感じるスカートの裾を引っ張って、少しでも足を隠そうと奮闘していた。鍛えられた足は筋肉で太っているわけではないし、むしろとても健康的だ。別段短いと思うわけでもない。どうして隠したがるのか、ヤーンはぼんやりと不思議に思う。
「ナマエはさあ」
「ん?なに?」
「……その恰好、ナンパされるかも〜とか、思わなかったわけ〜?」
「はあ!?な、ナンパ!?な、なんで!?」
「可愛いじゃん、似合ってるし〜」
「ヤ、ヤーン!?今日はどうし、どうしたの!?不意打ち多くない!?」
「そうやって褒められたの、素直に認められないのも可愛いし〜」
「っ!?」
「パーティだっけ?変な男にツバつけられないか、心配だな〜って思うんだけど」
真っ赤になって戸惑うナマエの目の前に、普段と変わらない緩やかな微笑みのヤーンの顔が迫る。困惑でどうすれば良いのか分からなくなっているナマエをからかうように、顔の横に垂れているナマエの髪の一房、引き寄せたヤーンはそれに口付けた。「……へ!?」「あ〜、ほらその顔」だめじゃん、と呟いて今度は耳元に口を寄せる。何がダメなの、と抵抗を忘れたナマエの声を拾った。目を見開いて戸惑うその表情が、更に煽っていることをナマエは自覚していないのだ。頼むから他の男の前でそんな顔するなよ、と言ってみればナマエは頷くだろうか。ぼんやりと考えながら本能の赴くままに、耳と首のあいだに噛みつこうとして、…躊躇った末にそうすることを辞めたヤーンは、腕の中にナマエを閉じ込めた。ナマエの首筋に顔を預けると、ふんわり、ナマエの香りがする。
「あー…、行かせたくない〜…」
「…護衛って別に、誰かとパーティで踊るとか、そんなのじゃないのに」
「そんな可愛い恰好のあんたをさ、他の男に見せたくないんだってば…」
「……じゃあ、一緒に来る?」
「お?」
「メギの石はあるし、ヤーンの腕はよく知ってるし、……ごめん変なこと言ってる…!」
「じゃあそれで〜」
「い、いいんだ…」
さらりと自分を解放したヤーンに呆気に取られながらナマエは、メギストリスの石を取り出した。「じゃ、行こうか〜」「手、は繋ぎ直すん、だ」「駄目じゃないでしょ〜?」「……まあ、うん」微かに頬を赤く染めるナマエを見つめながら、口元を緩めるヤーンにやはり、ナマエは気が付かないらしい。