トビアスに鍛錬の現場を見られる


「解放者様」
「……なに?」
「…その、」
「…なに」
「………いえ、大したことでは」
「言いたい事があるんならはっきり言えばいいのに」


「では、……どうしてそこまで、自らを追い詰めになるのですか」
「強くならなきゃいけないから」
「ですが、少々やり過ぎのように思えます」
「…それぐらいしないと、勝てないかもしれない」
「そうでしょうか」
「頼られて、駄目でしたなんて、言いたくないもの」
「………私達は」
「悪くないよ。分かってる。…頼られることが初めてじゃないし」


「ですが少し、休まれては」
「いらない。時間が勿体無い」
「休息も必要な時間だと、」
「この世界の人にとって解放者はずっと望まれていた存在なんでしょ」
「…ええ、勿論」
「望まれていた解放者がやっと現れた。街の人達の顔色が目に見えて明るくなったわ。それを私が死ぬことで、前みたいに暗くなって欲しくないの」
「…………」
「がっかりされたくない。何もしらない人達の前で、常に英雄でなければならない。特別な存在なんて呼ばれてるけど、ずっと意地を張り続ける覚悟を固めたから解放者の呼び名を受け入れたのよ。…私にも、果たさなきゃいけない目的があるのは確かだけど、でも」


「解放者様、あなたが望むのであれば――」
「私は"解放者"でいる。解放者をやめることは望まないから、安心して」
「…何故」
「なぜって、トビアス。貴方だって解放者を望んでいたでしょう?」
「…それは勿論。この世界の、全員の意志です」
「じゃあ貴方の意志でもあるってことよね」
「私が、何か?」


「最初はね、いけ好かないとか思ったりしたけど。でも真っ直ぐでひたむきで、そのために努力して力を付けて。望んでいたものを私に取られちゃったあなたを…貴方の、代わりに。なるのならって思うの。トビアス、貴方がこの世界の存続を、解放者を望む限り私はずっと意地を張って、解放者であり続けるんだわ。…貴方のためになることがしたい。アンルシアを、姉さんを、…みんなを。探さなきゃ、助けなきゃって気持ちが消えたわけじゃないけど……今一番強く私を動かすのはね、トビアス。あなたの解放者を望む気持ちなの。だから心配より、応援してくれた方が嬉しいかな。頑張れって言われたらそれだけで、きっとこの痛みも全部吹き飛んじゃうから」