よいこわるいこ
「ねえ、エステラ」
「どうしましたか、ナマエさん」
「竜族と人間って結婚出来ないかな」
「……えっ!?」
「だから竜族と人間。…やっぱり無理かなあ」
無理だよねえ、と心底残念そうに顔を歪めたナマエにエステラはああ、と小さく悟る。トビアスはまだかな、まだ帰ってこないのかな、また怪我してないかな、ちゃんと食べてるかな……何度かそんな呟きを耳にする機会があれば、どれだけ疎くてもナマエがトビアスのことを好いていると分かるだろう。――氷の領界から、闇の領界へ繋がるゲートを開いた直後。すっかり元気になったトビアスを連れていった時の、ナマエの反応は正直なところ。エステラの密かな楽しみでもあったのだ。…同時に、心苦しくもあったのだが。
トビアスを見るなり顔をぱっと輝かせたナマエは、トビアスの賛辞の言葉に頬を赤くし気恥ずかしそうに微笑んでいた。トビアスの前でだけだ。ナマエの普段感じる明るい中に確かに存在する落ち着きも。戦いのときの必死な、それでいて凛々しい表情も姿も雰囲気も。他の誰でも無い、トビアスの前でだけナマエは一人の少女に戻ることが出来る。
トビアスが部下達と共に闇の領界へ旅立つのを、ナマエが追いかけたい、と言わんばかりの目で見送ったのをエステラは知っている。同時にトビアスも知っているのではないかとエステラは密かに思っている。トビアスだってここまで純粋に想われて、悪い気は………悪い気はしないのだろう。戸惑っているのだろうか。確かに自分も同じように想われたら戸惑うのかもしれないと、エステラはトビアスに想いを馳せた。トビアスは未知の領界で、ナマエの為に。ナマエが進むべき道を示すために奮闘しているのだろう。
「ねえ、エステラ」
「どうされましたか、ナマエさん」
「総主教様って随分と過保護じゃない?私、そんなに弱そうに見えるかな」
「いえ、ナマエさんの強さは皆の知るところですし。…総主教様の御意向には、しっかり意味があると思いますよ」
「でもエステラ、私は…私は死んだりしないんだけどな」
「何かあってからでは遅いのです。大切な竜族の解放者様なのですから」
「……解放者様、かあ」
「ナマエさん?」
覗き込んだエステラに気を回すことなく、ナマエは目を伏せ黙り込む。ナマエが思い出しているのは、氷晶の聖塔前で再会した兄に言われた言葉。兄の表情。色々なことに、恐怖を感じている自分自身。解放者様であればいつか、やはり死ぬのだろうかとナマエは思う。死んだら、トビアスと話すことも。トビアスに称えて貰うことも。トビアスにありがとうを言うことも。何も出来なくなるのかとナマエは考える。それは酷く切なくて、苦しいことのように思う。
運命を捻じ曲げてやるにはどうすればいいのか。運命を捻じ曲げ、且つ自分の欲しいものを手にするにはどうすればいいのか。考えど何も出てこないナマエだったが、とにかく自分がトビアスを欲している事実だけは理解していた。結婚出来ればいいのに、私がアストルティアに連れ帰って、幸せにするのに。一人には広い家も、二人ならきっと楽しいのにと。頭のなかで声が響くけれど、それが夢物語であることもナマエは理解しているつもりだ。例えば逆に、トビアスが自分を欲していて。一生を共にし、この世界で骨を埋めてくれと目を見て頼まれたとしよう。迷いなくその手を取れるかと言えば、ナマエは首を縦に振れない。アストルティアにあるものは、自分のなかで大きすぎる。トビアスだって同じだろう。この世界にトビアスは生まれ、生きてきたのだからトビアスはこの世界を選ぶ。
――ナマエは自分が選ばれる可能性の低さなんて、知りたいと思わない。
「あーあ、私が竜族だったらいいのに」
「トビアスが人間であれば良かったとは思わないのですか?」
「トビアスは竜族で、…生真面目で。ナドラガ教団の環境で育ってきて…それで今のトビアスになったんでしょ?私は今のトビアスが好きだもん」
「ナマエさんも同じなのでは?竜族であるナマエさんは、トビアスを好きになるのでしょうか」
「きっと好きになると思うなあ、トビアスはとても魅力的だから」
「本人が聞いたら、喜ぶと思いますよ」
「言わないよ?言ったら多分、トビアスは…」
「トビアスは?」
「トビアスは生真面目だから、私に応えようとして。その気がないのに頑張ろうとしてくれちゃうのかなあなんて。で、図々しい考えの私がそこに付け込もうとするから言わない」
「…恋情は、悪いことではないと思います」
「真っ直ぐなトビアスが好きな自分を、守りたいだけなのかもしれないね」
知りたいと思えど、聞きたいと思えど。全てを聞き、全てを知るのが時に自分を傷つけるのだと身を以てナマエは知っていた。それでもいつか知るべき時は来るのだから、それまでは自分の心を守ってやりたいとナマエは思う。どうしようもなく漏れたのは苦笑いで、エステラが言葉に詰まるのをナマエは心の中でだけ謝った。
お前はこの世界で死ぬ。今ならまだ、間に合うかもしれない――もう間に合わないよお兄ちゃん。見たこともない衣服に身を包み、銀色のキューブで姿を消す大好きな肉親の姿が脳裏をちらつく。ごめん、ごめん。死ぬかもしれない。死にたくないと思う。お兄ちゃんの言うことを聞く、素直な良い子で居たいと思う。でもねお兄ちゃん。進むたびに好きになった人が、褒めてくれるのが嬉しくて、死んでもいいかななんて思っちゃうんだよ。それはやっぱり――悪い考え方なのかなあ。
(2016/01/01)
明けましておめでとうございます!3.2撃破記念です!
解放者してますが本当に解放者してていいんでしょうか
ナドラガ神蘇らせたいって言ってますけど3だけラスボスのなんというか、ラスボスの気配が薄い…やはりナドラガ神と戦うのでしょうか……神様と?いやでもいい神様な可能性 悪い神様に竜族は狙われているのかもしれない……うん……どうなんだ……
あのフード勢はかませっぽいですよね…そうなの?やっぱりなの?
蘇ったナドラガ神はどうなる!創生の霊核ってなんだ!
兄弟の出番もっとくれ!!!