逆トリしてきたテリーを拾う




その日は飲み会に捕まってしまって、同じ部の先輩たちに連れ回されて…先輩の愚痴を聞き流しながら久しぶりに飲んだお酒は、私をふわふわと適度に心地良くさせていた。終電も普段帰宅に使っているものより人が少なかったし、気分は軽やか。明日は休み。街灯の照らす裏道を、鼻歌なんか歌いながら…アパートに向かって歩いていた。それは朧げな記憶だけど、確かだ。確かに覚えている。

とにかくふわふわ、歩いていた私は普段の道に見慣れないものを見たのだ。それは気分と同じようにふわふわと浮いていて、街灯の下に座り込む人影に何事か話しかけていた。小さいロボットか何かかと目を凝らしたら、ぬいぐるみみたいで…その人影を励ましてみたいに見えたのだ。人影の方へ目をやると、それが男の子で、まだ大人でないことが分かった。明らかにコスプレものの服装で家出してきたのかなあ、なんて思っていたらその人影と浮いているぬいぐるみが、足を止めている私に気がついてふわふわと近寄ってきて……近寄ってきて。


「それから、どうしたんだっけ」
「キミの目の前でボクのお腹が鳴っちゃって、キミがお腹すいてるの、って」
「そうだったかな?」
「そうだったよ」


何度もこくこくと頷くぬいぐるみは私になんて目もくれず、ラップに包んで冷凍したご飯が電子レンジで解凍されていく様を食い入るように見つめている。「ねえテリー、見てよ!」「…危機感が無さ過ぎだ」「でもこの人は別に危害なんて加えないと思うよ」「………」無言でこちらを睨む、あまり喋らないそのコスプレ少年は部屋の入口から動かない。腰に差した大きな剣みたいなものは、彼が動くたびにかちゃかちゃと質量を持った音を立てていた。最近のコスプレ道具って、本物みたいですごいんだなあ。


「待ってね、ええと…」
「わたぼうだよ」
「ん、わたぼうね。すぐ昨日のカレーの残り…ちょっとだけどあっためるから」
「テリー、カレーだって!」
「……」


黙り込むその少年が、じろじろと私を睨んでいる気がしたけどアルコールの回った脳内はそんなことはどうでも良いと判断した。今だ帰り道と同じふわふわ気分、お皿にラップから取り出したご飯を盛って、さっき温めたばかりのカレーをかける。うわあ!と嬉しそうにふわふわ漂うぬいぐるみが、入口のコスプレ少年を手招きしていた。


「冷めないうちにどうぞ」
「テリー、早く!」
「いらん」
「でもテリー、お腹減ってるでしょ?」
「別に」


次の瞬間ぐうぎゅるる、と鳴り響いた音が少年の本音だったんだろう。苦々しいと言わんばかりの顔をした彼は一度唇を噛んで、やっぱり顔を背けた。うーん、別に余程まずいカレーってわけじゃないんだけどな。見知らぬ家出コスプレ少年だし、うーん…


「とにかく私は寝るねー、おやすみなさい」
「え、えええ!?ちょっとキミ!」
「私座布団の上で寝るから、……」


横になって、目を閉じる。布団を敷く気力はないし、何かがおかしい気はするけど、とにかく眠りたい。欲求に従った私はそのまま目を閉じて、顔のあたりをぺちぺちと叩く柔らかい小さな何かの存在を知らないことにした。もしかしたらこれも、夢かもしれない。家出少年と喋って浮くぬいぐるみを拾う夢なんて、珍しい夢もあったものだ。






(2015/04/20)

っていうわたぼうとテリーが逆トリしてくるほのぼの話を書きたいっていう残滓
朝起きたらなんて知らないコスプレ家出少年がいんの!?ってびびる夢主
わたぼうが元の世界と繋げて帰れるようになんとかするまでテリーは帰れません的な