6主と人魚
ねえ知ってる?人間の世界にはね、『人魚姫』って話があるんだって。主人公の人魚姫は、美しい人魚の姉妹の末娘。人魚姫は誕生日の日に初めて人間の世界を見に行くんだけど、そこで船に乗った美しい王子の姿を目にするの。嵐に襲われた船から落ちた王子を人魚姫は助けて浜辺まで運んで、それから看病するんだけど…結局は人魚と人間。王子は自分を助けたのがまさか人魚だなんて思わないの。偶然通りかかった娘を命の恩人だと思うのね。
普通はほら、諦めちゃうじゃない。だって種族が違うんだもの。でも人魚姫は王子のことを諦めきれずに、魔女のところへ行くんだって。そうして魔女に、自分を人間にしてくださいって頼むのよ。魔女は人魚姫の声を代償に、彼女に人間の足を与えるの。歩くたびにナイフで刺される痛みが伴う足を。しかも王子と結婚出来なければ、海の泡になって消えるなんて!信じられないわよね、そんな風になっても追いかけたいなんて。どれだけ美しい王子だったんだろうって思っちゃうわ。
え、ああ、そのあと…?確か声を奪われたまま、人魚姫は王子に拾われるのよ。けれど王子は命の恩人だと思い込んだ娘と結婚してしまって、人魚姫の恋は叶わずじまい。けれど妹を心配した人魚姫の姉達が、彼女にナイフを渡すんだっけ。ナイフで王子の心臓を刺せば、人魚に戻れるように魔女と契約を結んだと言ってね。人魚姫はナイフを受け取るの。それで眠っている王子を刺そうとするんだけど、やっぱり刺せなくて海に身を投げるの。それで泡になって消えていくって話。
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姉さんが話してくれた人間の語り継ぐ人魚の童話。それが本当でも、嘘でも今はどうだって良いのだ。
私は海の底で、今日も居るはずのない魔女を探している。マーメイドハープの音色に誘われ、一目で心を奪われてしまったあの人に会えるのなら声なんていらないし、ナイフで刺される痛みを常に感じることだって怖くなかった。ああ、海と同じ、綺麗な青色の髪。
レック、レック、あなたに会いたい。あなたと同じ世界に生きたい。海の泡になったって、あなたと一緒にいられるのなら私は地上で生きていたい。例えこの思いが叶わなくても、私は泡になることを後悔なんてしないんだわ。
(2015/04/01)
スッて浮かんでスッて消えた6主(王子)と人魚の話。救いようがないから没!