ドラクエ3誕2015




――あれから、何年経ったんだろう。

私達と共に魔王を討ち果たす旅をした勇者は、全てが終わったあとに姿を消してそれっきり。誰にも、何も告げることなくふらりと消えてしまったあの勇者の気持ちを理解したのは、ずっとあの酒場から一緒だった私達だけだろうと思っている。

国王は世界中におふれを出して探させたけれど見つからなかった。時は過ぎてゆくばかりで、緩やかな戦いのない日々が私の心を優しく溶かした。…他の二人はそうでもなかったいたいだけど。一人は勇者と同じように旅に出ると城を出て、一人は困っている人々の役に立ちたいと城を出た。結局、このお城に留まることを決めたのは変化を求めなかった私だけ。

私は城に一つ部屋を借りて、相談役の真似事をしながら穏やかな日々を過ごしている。部屋に旅をしていた頃の名残の品を飾って、勇者の剣のレプリカを立て掛けて、城の有名な絵師が描いた勇者の肖像画を飾って、それらを眺めながら冒険の記憶を探る。


――ねえ、ナマエ。

帰らない勇者の面影を夢の中でも追い続けてしまうのは、あなたのことばかり考えるからかな。私、結局言えないままだった。旅をしている間はあなたはそんなことを考える余裕はないだろうって、遠慮してたからいけなかったのかな。もしも私があなたに気持ちを伝えていたら、あなたは一人でどこか行かなかった?私を連れていってくれた?

ああ、ひどい勇者様…それでも私は、未だあなたのことを忘れられないままでいる。…ずっと。そう、ずっと、あなたの輝きに憧れている。あなたの目に映る世界を、この目で垣間見ることができたら今、どんなに幸せなんだろう。なのにあなたはここにいない。


「…どうしたんですか、賢者様」
「え?」
「え、って。賢者様、涙を流されていらっしゃるから…どこか痛いのかと」
「あ……いえ、これは違うの。ごめんなさいね」


そっと目元を拭うと、ぼやけた視界に彼の後姿が見えた気がした。瞼の裏で、剣を振るいながら勇猛果敢に動き回る影。どんなに覗き込もうとしても、私は彼の間合いに入れないから遠くから見守ることしかできないのだ。ああ、もう…私は彼の顔も思い出せないぐらい、年を重ねてしまったのかしら。それとも彼の後でずっと戦っていたからかな。目で追いかけているとき、ずっと背中ばかり見ていたことを思い出す。今更後悔しても遅いけど、もっとしっかり、彼の顔を見ていたら良かったと心から思う。

剣をふるう勇者が、瞼の裏で魔王にとどめを刺すのを見届けてから立ち上がった。日めくりの暦表の数字は世界が救われた記念日である日を示していて、私はその数字の部分を優しく優しく、丁寧に剥がした。控えめに音を鳴らした部屋の時計は、日付が変わった瞬間を告げる。


「では賢者様、おやすみなさい」
「…おやすみなさい」


控えめに告げてドアを閉めた、小さな弟子に勇者の姿を重ねてもう一度だけ目を閉じた。拝啓、勇者様。あなたは今、どこで誰と何をしていらっしゃるんでしょう。私はここに、ここに居ます。あなたのことを忘れたことなど、一日足りともありません。

――ずっと、あなたを待っています。だからどうか、いつか、







(2015/02/10)

27周年本当におめでとうございます。

3勇者に置き去りにされた賢者ちゃんです。彼女にとってこの日は世界が救われた記念日であると同時に、置き去りにされた事実を再確認する日でもある…みたいな感じの