その手の温もりを知りたかった


※ネタバレがありますのでご注意ください


最初は随分失礼なやつだと思った。自信家で、自分で自分のことを最強の剣士、なんて。…それに見合うだけの実力を持っていたし、時間が経つにつれゆっくりと絆を深めていったし、闇竜との戦いの頃にはすっかり胸を張って仲間の一人だと言い切れるぐらいに心を開いてくれはしたけれども。それでも最初、私はテリーのことが苦手だったし嫌いだった。私の剣術見たテリーが、それを鼻で笑ったのが一番印象に残っている。

そう、好きになったのは最近だ。目で追いかけてはいたけれど、それは目の上のたんこぶを見る感覚に違いなかった。いつか絶対ぎゃふんと言わせてやる!って息巻いていたぐらいだもの。でも私を見下していて、私を弱いと言って、私の剣に持ち主を間違えたんじゃないかなんて言って、私よりも強い男の人なんてそんなの、…ずるいじゃない。だから本当に苦手だったし嫌いだった。機会があるたびにテリーよりも強いところを見せたくてアクトやメーアと共に剣を振るったけれど、テリーはそれを遥かに凌いでいた。


だからずっと苦手だったけど、…光の塔で一人、他のみんなが扉の番人を片付けに行ってしまって、一人で女神像を守っていた時。みんなが向かった方とは別の方向の扉から相当な量の魔物が現れたせいで、私は囲まれてしまったのだ。味方の魔物も皆やられてしまって、自分の体力も限界で…流石にこれは死ぬかな、なんて走馬灯を巡らせていたら雷系の斬撃が目の前で煌めいて、私と女神像を取り囲んでいた魔物達の一部を光の粒子にして消し去った。しっかりしろ、と呼ばれたのを覚えている。その時湧き上がってきたのは、悔しさと喜びで綯交ぜになったなにかだった。

その後も海底神殿、世界樹、エルサーゼ王国…各地の戦いで、私は何度か命を拾われた。同時に、何度かテリーの命を拾った。ありがとう、なんてお互いに一言も言わなかったけれど話す回数は随分増えたと思う。それはテリーがやっとみんなに心を開きはじめたからかもしれないし、私がテリーに心を開くようになっていったからかもしれない。背中を預ける時の安心感が、出会った頃と今では随分変わった。アクトとメーアがさらりとやってのけたこと、ゼシカとヤンガスが当たり前のように預け合っていたこと。相手の強さに対する信頼がなければ、背中を預けるなんて出来ないのだ。

そう、つまり今はテリーを、テリーの強さを、…私は心から信頼している。


「また会えるの、楽しみにしてるよ」
「お前も、俺と勝負を付けたいんならもっと腕を磨くんだな」
「………どうだろ」
「遠慮するなよ。最初は勝負しろ勝負しろって煩かっただろ」
「……うん、次に会う時はもっと強くなってる」


じゃあな、と手を上げてひらひらと振ったテリーがレティスの方へ歩いていく。それがどうしても耐えられなくて、咄嗟に伸ばした指はがテリーの腕を掴んでいた。「……ナマエ?」怪訝そうな声と、少しだけ目を見開いたその表情から目を逸らして俯いた。目も、銀色の髪も、青色の服も、もう見ることが叶わないなんてどうしても耐えられそうになかった。でも、行かないでなんて言えるはずがない。


「…テリー、ひとつだけ」
「なんだ」
「私は、っ」


助けられて嬉しかった。守られていて嬉しかった。多分一度守られただけで、私は随分弱くなったんだと思う。ねえ、好きになってたんだよ。どうしたらいい、どうすればいい……なんて、こんな感情をうまく言葉にして言えるはずもない。それに勇気をひとつ、吐き出すより簡単に心を表現出来る行動があることを私は知っていた。おそらく拒絶されないであろうことも、なんとなく感じ取っていた。腕を掴んでいた指先は肩へ。少し爪先を伸ばせば届くことを、本能できっと理解していた。触れた唇は柔らかくて、微かに熱を持っていて……心臓が破裂しそうなその一瞬に、気がついた人はきっと誰もいない。

微かに目を細めたテリーは私が体を離したあと、小さく馬鹿野郎、と呟いて背を向けた。そのまま彼は他の皆と一緒にレティスの背に乗って、こちらを一度も振り向かなかった。ああ、元の世界に恋人がいたのかもしれない、と考えたのはその後だった。住んでいる世界が違うからこそ、好きになってはいけない人だったのかもしれない。

それでも私はテリーのことをずっと忘れないんだろう。例えもう二度と会えないとしても、会える希望に縋って生きていくんだろう。でも、それでもいつか、会える日を夢見て剣を振るうし、強くなりたいと強く思うし、次までに少しぐらい女の子らしくしておこうと思うのだ。


その手の温もりを知りたかった



(2015/02/28)


ヒーローズのテリーはすごい格好良いですね
あの鞄には何が入ってるんでしょうか 夢と希望でしょうか
個人的にはスライムがいいです あの鞄からぴょこって覗いてほしいです