なかまになる?
えっと、そう。まず、君の名前を聞こうか。…ナマエ?ナマエって言うのか。へえ、うん。…え?いや、悪くない名前だと思うよ。僕に名前の善し悪しはよく分からないけれど。
で、君はどうして僕に付いて来たいの?見るからにその、普通というか…あ、君魔法使いなのかな。え、違う?賢者?いや、嘘はよくないよ。……嘘じゃない?はは、まあ…それは置いておくとしようか。具体的に聞くよ、君に何が出来るんだい?見るからに普通の町娘というか、君は昨日の町の町長さんの娘だろう?どうしてここにいるんだよ!
そんなに怒らないでって…いや、怒ってるわけじゃない。こんな些細なことで怒るはずないだろ。ただ驚いてるだけだよ、僕は。だって昨日の、あの町はそこそこ大きかったし、君のお屋敷にも行ったけれど君は随分と優雅な暮らしをしていただろ?要するに、お嬢様だ。だから君が僕たちの旅に付いて来たいなんて言い出すなんて思うこともなかったから、戸惑ってるんだ。
いや、確かに仲間は増えて欲しいと思ってる。人数的に、後一人が限界だけど…希望?そうだな、魔法使いはもう居るんだ。後一人は多分君も知っての通り、君の父さんに気に入られていた彼、そう戦士だ。それから僕。前衛は事足りてるから、回復の出来る僧侶の仲間が欲しいなと思ってる。…え、君?君を仲間にするのは無理だよ。そもそも君のお父さん、町長さんは君を相当溺愛していたじゃないか。たぶらかしたなんて言われて面倒に巻き込まれるのは御免だよ。君がいくら自分を賢者だと言い張ろうと、そうには見えないってのもあるけど…
えっ、許可は取ってきた?僕と一緒なら安心?……あの町長覚えてろよ……ああ、なんでもない。なんでもないけど、でも僕が君の身の安全を守ってあげられる保証はないんだ。…自分の身は自分で守る?あ、あー…っと……頼もしいのはいいけど、僕たちの旅の最後の目的、言っただろ?あの時君も居たじゃないか。そう、冗談でもなんでもない。世界を旅している最期の目的は、魔王を倒すことなんだ。いつ死ぬかも分からない旅だ。
それでも君は一緒に来たい?僕だって、いつ死ぬか分からない恐怖に震えてるんだよ。君の目に僕は勇敢な、文字通りの勇者に見えたかもしれないけど僕にだって恐ろしいものは沢山あるんだ。そう、例えば死ぬこととかね。本当に自分は勇者なのか、とかも怖かったりするよ。…君には分からないだろ?父親が魔王を倒すために旅に出て、死んだって報せが舞い込んできたんだ。そうしたら王は勇者の息子だと僕を魔王討伐の旅に駆り立てた。都合のいい口実だったんじゃないかと思う時さえあるよ。僕は、勇者に縛られている。
それでも君は僕に、僕達に付いてきたいと思う?他の二人は僕を認めて、引っ張ってくれているけれど…君にそれが出来る?僕は、君に背中を預けて大丈夫?……そんな顔しないでよ、ええと…ナマエ。でもこの旅は本当に危険なんだ。気軽な気持ちで付いて来られたら、僕も君もきっと後悔する。何かあってからじゃ遅いんだ。
どうする?今ここで引き返せば、何もなかったことにして普通の生活に戻れるよ。…それとも、本当に、心から、後悔しないと誓って――僕と一緒に来る?君が賢者だと言い張るのはまだあまり信用出来ないけど、それは一緒に戦えば分かることだしさ。実際、役職はあまり関係ないんだ。いつ死ぬかも分からない旅に、付いて行きたいって言ってくれただけで僕は嬉しいし。ね?後悔をしたくないのなら、このまま帰るのをおすすめするよ。
……って、ちょっと!どうして泣きそうな顔をするのさ!え?帰る方が後悔する?…ああ、ええと……君はお嬢様だ。大きな町の大きな屋敷の令嬢だ。血に塗れた戦いをするより、優雅に紅茶を飲んでいる方が似合うと思う。それにほら、お嬢様なら結婚話の一つや二つ……って!こ、こんなとこで泣きそうにならないでくれよ!誤解されるだろ!
誤解じゃないって…誤解だろ!僕が君を泣かせてるって思われるじゃないか。ただ僕は真実をありのままに――……あのね、話を聞いてた?まだ付いて行きたいって言うなんて…やっぱり君は温室育ちのお嬢様だ。何にも分かっちゃいな……分かってる?…分かってるって、死と隣り合わせの旅のこと?きっと、僕らの旅はこれから先、もっと過酷になっていくんだよ。見たこともない、恐ろしく強い魔物にすぐ殺されてしまうかもしれない。分かっている?……本当に?
随分と頑固だけど……ねえ、本気?本当の、本気?君を連れて行ってもいいの?
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幼い頃から積み重ねてきた、炎の魔法と回復の魔法が役に立ちそうだと思ったの。
勇者様に一目惚れをしてしまったのもあるけれど、同時に使命のようなものをあなた達を見た時に感じたわ。ねえ、私を連れて行って欲しいの。確かに死ぬことは怖いけれど、勇者様が死んでしまう方がもっと怖いと私は思う。だから付いて行きたいの。もし勇者様が倒れた時、私は勇者様の魂をこの世に呼び戻す術を持っている。
ずっと何の役に立つのか理解が出来なかった魔法の力を、ようやく役立てられそうなのよ。勇者様、私もあなたを認めたい。弱いところも、強いところも。そうして支えてあげたいと思うんです。人間としてのあなたにも一目惚れをしたけれど、同時に勇者としてのあなたにも一目惚れをしてしまったんだわ。役に立たなかったら置いていけばいい。役に立つのなら、共に歩いてくれればいい。
た、確かに今は普段着よ!…半分逃げる形で脱走してきたから、気品は薄いかもしれないけど…でも服装で、人の全てが測れるはずはないし!お金はちゃんとあるから、自分で後でそれなりに旅に適した服を買う!あ、でもどんな服が旅に向いてるのかな…え、実践?ううん、したことない。でもどんな魔物より、時には人間の方が怖い時だってあるわ。
あああもう!私は意地でも付いて行くから!すぐに殺されてしまうかもしれないけど、それならそれで、私の分不相応な行いに対しての天罰だと思うことにするから!……ええ、もちろん。本当に、いいよ。大丈夫、何の問題もないわ。私だって、初めての恋だもの!この気持ちに殺されてしまったとしても、私に一切の悔いはないから。お願いだから!
なかまになる?
(2014/07/08)