Mutual Love
「……やっぱり、まだまだですね」
「そんな事は御座いません、ナマエ様は確実にお強くなっておられます」
スーパーシングルトレインの49戦目。今日で見事99敗達成。
相棒のダイケンキが私を慰めるように体を擦り付けた。
ごめんね、と呟いてボールに戻す。ノボリさんもシャンデラをボールに戻すところだった。
「じゃあ、また挑戦しに来ます」
「ええ、お待ちしております」
ぺこりと頭を下げると、丁度駅に到着するアナウンスが響いた。
**
「……ごめんね、いつも負けちゃって」
ライモンシティのポケモンセンターに戻ってきて、ジョーイさんに二匹の治療を頼む。
ランクルスとダイケンキに謝ると、気にするなというように鳴いた後に二匹で治療室へ向かって行った。
二匹の治療を待つ間どうしようかと考えていると、窓ガラスに観覧車が写っているのが目に入った。
**
遊園地のベンチに据わって観覧者を見上げる。一緒に乗る人なんてもちろん居ない。
シングルトレインを勝ち抜いて、三ヶ月。
自分の力を試してみたいと挑んで、最後尾の車両で出会ったノボリさん。
心臓が、今までに無いぐらい高鳴った。
バトルして、己の全力を出して……
彼は本気じゃなかったんだろうけれど、それでも勝つ事が出来たのがとても嬉しくて。
――――『スーパーシングルトレインで、もう一度……次は本気で戦いましょう』
そう誘われた時、私は完全に落ちてしまったんだと思う。
ついでに調子にも乗ってしまった。
そのまま何も考えずにスーパーシングルトレインに挑んで、驚く程簡単にやられてしまい。
以来ひたすら特訓して、新しい技を覚えて強くなって、――ノボリさんのところに辿り着く事が出来た時は本当に嬉しくて。
まぁ、それからだ。本気のノボリさんに99敗。次負ければ100達成である。
「……でも、勝つまで終われない」
スーパーシングルトレインで、初めてノボリさんに負けた時に決めた事。
―――勝ったら、告白する。
自分で勝手に決めた縛りで、私は相棒たちを苦しめているんだと思う。それでも一緒に頑張ってくれてるダイケンキ達には頭が上がらない。
私もポケモン達も以前に比べたら格段に強くなったし、……ノボリさんに褒めてもらえるようにもなった。
名前を覚えられていた時は本当に嬉しくて飛び跳ねたっけ。
「……様、……ナマエ様?」
「へ?わ、ノボリさんっ!?」
「どうされたのですか、こんなところで」
顔を上げると目の前にはノボリさんが立っていた。どうされたのですか、はこちらのセリフだ。
お仕事は、と聞くとノボリさんは珍しく微笑んで休憩です、と応えてくれた。その微笑にどきりと心臓が高鳴る
「観覧車には乗られないのですか?」
「いえ、一緒に乗る人なんて」
「では宜しければ、一緒に乗って頂けないでしょうか」
「……い、いいんですか?」
「勿論でございます」
私も少し気分転換をしたかったので、と言ってノボリさんは手を差し出してくれた。
**
「久しぶりに乗りました、観覧車なんて」
「私もでございます」
「ノボリさんでも、気分転換したい時ってあるんですね」
意外です、と言いながら窓ガラスから顔を離して振り返――ろうとするとノボリさんに抱きしめられていた。
……え?
「え、あの、ノボリ……さん?」
「今日――本当に負けそうでした。次はきっと、ナマエ様は私に勝つと思います」
「ほっ、ほんとですか!?」
「……それが私にとっては喜ばしくないのです」
「え?」
「私が負けてしまえば、貴方はもうバトルサブウェイには挑戦されないのでしょう?」
ノボリさんの腕に込められる力が強くなる。
「ナマエ様が好きです。――初めて、シングルトレインで戦ったあの日から」
耳元で優しく囁かれた言葉に、膝に入れていた力が抜けた。
「………ノボリさん、その、………ほんと、ですか?」
「嘘でこのような事は申しません」
「私、……私!ノボリさんに勝ったら言おうと思ってた事があるんです」
「なんでしょうか」
「ノボリさんが好きです。―――初めて、シングルトレインで戦ったあの日から」
囁き返した瞬間、優しく唇を塞がれた。ああ、私はまだまだノボリさんには勝てないみたいです。
Mutual Love
(私達、両思いだったんですね)
(そのようですね、……柄にもない事をしてしまいました)
(ナマエ様、―――いえ、ナマエ)
(私とお付き合いして頂けますか?)
(2013/01/04)