これは一時の戯れ


男の人と歩いた。その事実に嘘はない。

ただしそれは私の個人的な知り合いであり先輩で、やましいことは一切無い人だった。そもそもあの人――ダイゴさんが私と恋愛なんて!分不相応にも程があるというものだ。ダイゴさんは私に各地を回っている時の話だとか、チャンピオンとしてバトルをしている時の話だとか、最近のバトルの流行りなんかを楽しそうに話してくれた。聞いていた私も多分、終始笑顔だったのだと思う。それが偶然私達を見てしまった、カルム君の気に入らなかったらしい。


「俺と居る時より楽しそうだっただろ、ナマエ」
「えええ…それは比べるものではないというか、別物の時間でしょう」
「比べるものじゃない?」
「カルム君との時間はカルム君との時間、ダイゴさんとの時間はダイゴさんとの時間」
「そいつの名前呼ばないでよ、むかつく」


ぷう、と頬を膨らませるカルム君はまだまだ子供だと思ってしまう。どういうこと、と怖い顔で迫ってきた時はどうなることかと思ったけど…カルム君はまだぶつぶつと不満気だ。私はそんなに信用されていないのかしら。私が好きなのはカルム君だし、告白された時はあんなに嬉しかったのに。だから愛情表現もしているつもりなんだけどなあ、伝わっていなかったりするのかしら。

例えばそう、ご飯を作ってみたり。カルム君のお母さんにはまだまだ及ばないみたいだけど、時々お料理を習っているからどんどんカルム君の好みの味になっていると思うんだけどな。他にはそう、えーっと……私の部屋にカルム君の私物を置くことを受け入れている。これは大きいと思っていたんだけど、カルム君からしたらどうなんだろう?


「そもそもナマエはいつも俺を子供扱いするんだ」
「そんなことないよ。でも実際、私より5つ年下でしょう?」
「たった5年だ」
「されど5年よ。5歳も違うおばさんを好きだって言ったのはカルム君だわ」
「おば……自分で言う?まだ20になったばかりだろ」


呆れたようなカルム君は、やっぱり年齢的にも子供みたいだった。どうしたって無理なのかしら。年相応の恋を探した方がいい?ダイゴさんは随分と高望みだと思うけれど、カルム君の未来を潰してしまうよりはいいのかも。終わらせるんなら早い方がいいかな。ダイゴさんが好きなんだって嘘を吐いてみようか。カルム君は私に幻滅して、二度と近寄って来ないかもしれない。寂しいけれど、それが最善なら私はそうすべきなのだろうと思う。

されど5年。口に出した言葉は軽いけれど、実際は随分と重い言葉だ。このままカルム君と同じ未来を、私は迎えられるのかと常に不安に駆られている。だってカルム君にはまだまだ可能性も未来も無限大に道が用意されているのだ。そもそもチャンピオンとして殿堂入りも果たしているカルム君だ。私なんかが、彼の未来を奪ってもいいのかな。


「うー、」
「何難しい顔して唸ってるのさ。そんなに俺は子供?」
「…精神的じゃなく、肉体的とか、年齢的」
「なんだよそれ。確かに、まあ……それは認めざるを得ないけど」
「でもそんなカルム君が好きな私はどうすればいいんだろうね」
「っ、…ずっと一緒に居ればいいじゃん」


頬をほんの少しだけ赤らめたカルム君は、そっと私の手を取った。私と同じぐらいの手のひらが、そっと私の指先を包む。少し暖かいその体温に目を閉じた。そうだね、私もそうしたいよ。ずっと一緒にいられたらいい。好きだと言ってくれる、カルム君の隣でこうやって目を閉じていられたらいいと思う。

でもきっとそれは叶わないのだろうとも同時に思うのだ。今こそカルム君は私に夢中で、こうやって私を好いてくれる。でもきっとこの先一緒に過ごしていく上で、カルム君は私に見切りをつけるだろう。私は彼の選択を受け入れる他道はない。私がカルム君をどれだけ好きでも、カルム君が私を好きじゃなくなってしまったらこの夢は終わる。

ねえカルム君、あなたが好きよ。でもこの気持ちはこの先の未来で抱いてはいけない気持ちになるのね。いつかあなたが、私との時間を過去の恋として美化してくれれば、私はそれであなたを許してしまうんです。頭の片隅に置いていて。ねえカルム君、大好きよ。



これは一時の戯れ


:確かに恋だった

(2014/07/20)

年の差恋愛が美味しい季節ですね