幽霊が居候することになりました
その子から不思議な雰囲気を感じた。まるでゴーストポケモンに感じるような、そんな雰囲気。だから惹きつけられたんだろう。
目が離せなかった。こんな事は初めてだった。そして、それは確信に変わった。
きらきらと輝く太陽の下で、その子の体は透けていた。そしてそれを気がついていないらしいその少女はふらふらと歩き、そして止まった。
その体をするりとポッポがすり抜けた事に気がついていないらしい彼女は地面に座り込んだ。通行人達は誰も気がついていない。――僕以外は。
「ねえ君、どうしたんだい?」
「―――――ッ!?」
声をかけた瞬間、その少女の表情に色んなものが混じった涙が溢れたのを僕は見た。
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「記憶喪失?」
「……はい。自分の名前しか私、覚えてなくて」
幽霊は自分からなら物に触れられるらしい。ティッシュを掴んで鼻をすする姿は人間そのもの。
彼女はナマエと名乗った。家を探しているのだと。家に帰りたいのだと。
―――自分が幽霊だとは、気がついていないようだった。
「マツバさん、私の事どこかで見たりとか…!」
「ごめん、君はこの辺りじゃまったく見た事が無……え?」
僕はまだ名乗っていない。何故この子は僕の名前を知っているんだ?
人には見えていないのだろう透けた体の少女に対する警戒心を一気に引き上げる。
隣のゲンガーも少し警戒心を上げたらしかった。少女――ナマエを睨みつける。
「……へ?何で、マツバって……誰?」
「何を言っているんだ?マツバは僕の名前だ」
「ええっ!?何で私、あなたの名前を知ってるんですか!?」
「僕に聞かないでくれ!……まあ、知られていても不思議じゃないか」
ジムリーダーという立場上、名前は広範囲に知られていてもおかしくない。警戒心を少し緩める。しかし何故自分の名前と僕の名前のみを覚えているのだろう。
悪質なファン、という考えが頭の片隅に現れたが深く考えないようにした。流石に思い出すのが僕の名前と自分の名前だけというのは有り得ないだろう。
……と、なると彼女をどこに送り届ければ良いのだろう?家に帰りたい、と言うが肝心の家がある町のことすら思い出せないようなのに。
「あの、ごめんなさい……」
「どうかしたのかい?」
「迷惑ですよね?でも声掛けても誰も気がついてくれなくて。私の事、誰も見えないみたいな感じで……まるで幽霊みたい」
「………」
「でも、マツバさんは私に気がついてくれた。嬉しかったです、凄く。だから…」
迷惑になるのなら今すぐ出ていきます、と小さなか細い声が耳にぎりぎり届いた。思わず首を横に振る。
記憶喪失だとか、自分の名前を知っているだとかはもうどうでも良いと思いかけていた。声をかけたときに溢れた涙が網膜に焼きついている。
初めて見た幽霊は自分より幼い女の子で、そして家に帰りたいと願っている。だったら願いを聞き届けてやりたい。
だから普段は絶対に言わないであろう事を告げる為に口が動いた。
「何か思い出せるまで、ここに居ていいから」
「―――!」
「僕が君を家まで送り届けてあげる」
ジムに女の子を迎え入れるなんて多分、普段なら絶対にしない。でも彼女は普通の人には見えないらしいから大丈夫だろう。
ただ単に幽霊という存在が珍しかったからだろうか?兎に角、"ここに居て良い"という単語を認識したナマエの顔は太陽も顔負けな程に輝いた。
幽霊が居候することになりました
(僕はロリコンじゃないから心臓は跳ねない)
(2013/04/13)
頂いたネタのものなんですが、一話に収められる文章力なんて持ってなかったので
短編枠でひそひそ続いて、終わったら中編みたいににまとめる予定。