闇夜に繋がらない想い
彼の辿った軌跡をなぞり、傍らのウィンディと共にカントーを歩く。シンオウ地方のコンテストで私がリボンを増やしていくたび、レッドとの連絡は少なくなった。お互い忙しかったというのもあるけれど、今レッドがどこにいるのかすら私は知らない。
私がシンオウ地方のコンテストを全て制覇したら、そしたらレッドに相応しい女になれると思ったんだ。なのに、レッドは姿を消してしまった。ずきずきと痛む心を抱えながら、私は今カントーを歩いている。レッドが三年前に辿った道を。私とバトルをした道路を。彼がポケモンをゲットしたという場所へと。
レッドがどこにいるのか私は知らない。知りたいのに知れない。グリーンやリーフ、ファイアにも相談したのに誰もレッドの居場所を知らないのだ。リーグにも、各地のジムにも出向いた。でも、レッドの行き先は分からない。
「……レッドは、私のこと嫌いになっちゃったのかな」
元はといえば、ポケモンバトルで一度もレッドに勝てなかった私にレッドが『ナマエの技は攻撃力より、美しさの方が高いよ』と一言残したのがきっかけだったのに。レッドに一度も勝てないから、じゃあ別の分野で勝負して、レッドに誇れるものができたらずっと抱えていた想いを伝えるつもりだった。レッドに負けてばかりじゃ、レッドに劣るばかりじゃレッドの隣にいられないと思ったからこそシンオウへと飛んだのだ。でも、それは間違いだったのだろうか?
ケースを取り出し、開くと並んだたくさんのリボン。「レッドにもう会えないのなら、」こんなもの、もう必要ないな。レッドに見せて自慢して、褒めてもらおうと思っていたのに。見せる相手がいないのに、誇りを持ってどうしろというのだろう。
再び歩き出した。一歩一歩、丁寧に歩く。レッドの手がかりが道に落ちていないとは言い切れない。ゆっくり丁寧に歩いていれば見逃さないかもしれない。ふと顔をあげたら、ふと後ろを向いたらいつでもそこにレッドがいると期待して歩く。――そうしないと、悲しみに押しつぶされてしまいそうになるんだ。
「………ねえ、レッド」
どこにいるの?あなたは今、何を考えているの?最強の名を手に入れて―――そんなあなたに釣合いたいから、私も最強の名を手に入れて帰ってきたというのに。ああ、そういえばレッドからの最後の手紙には一言『バカ』としか書かれていなかったっけ。あれがどんな意味だったのかも聞かなきゃならないな。
「行こっか、ウィンディ」
頷き返してくれた相棒に笑顔を向けて、夜空を仰いだ。黄色く輝く月は、せめてレッドと繋がっていますように。
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その日のシロガネ山には吹雪ではなく、ちらちらとダイヤモンドダストが舞う夜が訪れていた。見上げれば藍色の空に浮かんだ黄色く輝く丸い月。「ピカチュウの色だ」思わず漏れた自分の声にピカピ!と自分の肩で嬉しそうに鳴いた相棒。その背をそっと撫でて口元を少しだけ緩ませた。
こんな夜に決まって思い出すのはナマエのこと。「……今、どうしてるんだろ」問いかけても答えは当たり前のように帰ってこない。連絡手段も何もないし、つまらない意地があるから連絡も取りたくない。ナマエのことを好きな気持ちは昔から変わっていないのに。
「弱いままでも、俺が守ってあげたのに」
どうして俺を置いていったんだろう、ナマエは。既に対等だと思っていたのは自分だけだったんだろうか。リーグで優勝したらナマエに想いを伝えようと思っていたのに、マサラに帰ったらそこにもうナマエはいなかった。俺に相応しくなりたいからとシンオウへ飛んでいってしまったのだと。コンテストに出るのだと。
しばらくして、ナマエのことがテレビや週刊誌に取り上げられるようになってから、嫌な嫉妬心が自分の中に芽生えたことを知った。俺の知らないナマエがそこにいて、そんな事柄を見せつけるようにしてくるメディアと関わりたくなかったからシロガネ山へと篭った。
強くなりたいと思った。もっと、もっと強く。気がつけば俺は伝説に成っていたらしかった。そう、時間は過ぎ去っていた。会いたいと思ってもナマエがどこにいるのか分からないし、分かりたいと思っていても山を降りる勇気がない。「ナマエがここに来てくれるのを待とう」そう言って、もう二年も経ってしまった。ナマエは今、どこで何をしているのだろう。
「会いたいのかな、俺」
自分でも、それは分からない。
闇夜に繋がらない想い
(あなたは今、どこにいるの?)
(君は今、どこにいるの?)
(2013/06/03)
っていうレッドさんを探す連載したい。そんな願望。