あたらしいともだち
「名前ちゃん、京介は最近どんな感じだい?」
「絶好調ですよ!シュートにも日に日に磨きがかかって、」
「そっちじゃなくて」
デートはどこに連れてってもらった、と囁かれた瞬間には耳元がかあっと熱くなっていた。稲妻総合病院の中庭、剣城が飲み物を買いに行ってしまって優一さんと二人になってしまった途端にだ。「ゆ、優一さん!…からかわないでくださいよ…!」咄嗟に耳元を抑えて距離を取ると口元に手を充ててあっはっは!と楽しそうに笑う優一さんの姿がある。「いやー、名前ちゃんをからかうのが面白くて」車椅子に座っていることを忘れさせるような、酷く楽しそうな姿を見てしまったら溜め息も出ない。
「名前ちゃん、俺はそんなに京介に似てる?」
「そりゃあ瓜二つってわけじゃないですけど…似てなかったら」
「赤くならない?」
「う、いや、言わないでくださいって!」
「結構顔に出るよね、名前ちゃん」
今度はくすくすと笑う優一さんに、敵わないなあなんて思ってしまう。年上の余裕というか、余裕たっぷりの剣城というか…とても優しいのに、時々こうやってからかってくると手の平の上で踊らされてしまう。「本当に意外だ。君みたいな子…初めて京介が連れてきた時は結構驚いたんだよ」名前ちゃんはほら、綺麗だからとストレートに褒められてまた顔が赤くなってしまった。社交辞令と分かっていても優一さんだからか。
「あ、優一さんが女の子を口説いてる」
――私の背後から聞こえてきた声の、発した言語を理解するのに数秒。「っうん!?」振り向くと少年サッカー界では非常に有名な顔があった。病院着でサッカーボールを抱えるその彼の名前を私は知ってる!確か…「やあ太陽君。残念だけど違うよ」そう、雨宮太陽だ!この病院に入院してたんだ、じゃなくて私を優一さんが口説っ!?
「ええ、違うんだ…じゃあ優一さんの彼女なの?」
「ノンノンノンンンンンンン!!!」
「じゃあ君が優一さんを口説いてたとか」
「違っ!断じてない!ないない!」
「て、テンション高いなあ……」
明らかに距離を開かれているけれどもそんなことはどうでもいい。「名前ちゃん、そんなに俺のこと嫌いだったの?」「優一さんそんなんじゃなくて!」あなたの彼女が私なんてそんな不名誉なことないでしょうに!あっでも剣城(弟)の方は私が…あれ、どうしてだろう心が痛い。「剣城…」「ん?俺?」違います剣城違いです優一さん。
私は剣城京介の…あああ言えるはずがない!恥ずかしい!正面切って、しかもお兄さんの前で堂々宣言なんて出来る勇気がない!思わず頭を抱えていると、雨宮太陽が優一さんにちょこちょこと駆け寄っていくのが見えた。「ちょっと変ですけど、綺麗な人ですね」……小声のようだが丸聞こえである。「だろう?自慢なんだ」優一さん大事な部分をどうして省略して話すんですか!私に自分から言えと言うんですか!鬼!
「どうしたんだい、名前ちゃん。慌てちゃって」
「優一さん楽しそうですね!?」
「ああ、楽しいさ。太陽君、名前ちゃんは可愛いだろう?」
「え、ええ。少し変わってると思いますけど」
「あああああだからそうじゃなくて!剣城ー!」
「…なんですか名前さん。騒々しい」
「ひえ、!?」
思わず叫んだ名前にまさか、反応が返ってくるなんて思わなかったもんだから間抜けな声が口から飛び出した。「……いくら外とはいえ、病院で騒がないでください」振り向くと剣城(優一さんじゃなくて、京介…くんの方)のとても冷たい目線が私を睨みつけている。睨まれているのもある種のご褒美なのと安心感で思わず駆け寄った。「剣城!」「な、んかいも呼ばないでくださいって!」何故だろう、腕を掴もうと思ったら避けられた上に距離を開けられた!寂しいです先輩。
「あ、剣城君。君も来て…」
「太陽ーっ!どうしてこっちに居るの!」
「天馬!ごめんごめん、ボール追いかけてたらつい」
**
「へえ、君があの苗字名前さんかー!天馬からよく話は聞いてるよ!」
「は、はは……どうも…」
「サッカーがすごく上手いんだよね!今度勝負しようよ!」
「それは勿論大歓迎っ!」
結論。サッカー好きは友達になれる。
太陽君と握手を交わし、勝負の約束をして天馬君を振り向くと俺も!と輪に飛び込んできたから三人で手を繋いで剣城兄弟を振り向いてやった。「いきなり元気にならないでください名前さん…」「はは、いいじゃないか京介。まるでお前が保護者みたいだ」笑顔の優一さんの言葉に、苦い顔をしていた京介くんの眉間の皺がさらに深くなったみたいだった。
あたらしいともだち
(2014/05/11)
「そういえば雨宮」
「なんだい、剣城君?」
「名前さんは俺の彼女だから」
「えええ!?そうなの!?………………ふうん」
「なんだ、その間は」
「優一さんなら敵わないけど、剣城君ならどうなんだろうって」
「……は?えっ、」
「名前ちゃんサッカー上手いし、ちょっと変わってるけど綺麗だし」
「いやいやいや待て雨宮!」
「一目惚れってやつかもしれない」