ひとりじめしたい


ホームルームが終わった放課後。
鞄に教科書を詰めていると、何やら周囲が普段よりもうるさい…ように感じた。騒いでいるのは教室に残っている大半のクラスメイト。何がそんなに面白いんだか。数人で集まってひそひそと…一定方向を皆向いている。視線の先は生徒が行き交う廊下。廊下?廊下なんかに何かあるのか?


「あ、やっとこっち向いた」
「っうっあ!?」


えっ、剣城君ってあの人と知り合いなんだ…あの人剣城のなんなんだ…という声が意図せぬうちに耳に入ってくる。俺の混乱を煽って何が楽しいお前ら!「えっ、何その嫌そうな声…」いや違いますって、驚いただけなんですって!「な、どうし、名前さっ」どうして名前さんがここにいるんですか、と問おうとすると勢い余って舌を噛んだ。そんな俺を見て、開かれたドア越しに名前さんが笑う。



「今日はね、練習無いから放課後デートのお誘いってとこ」



―――この人はどうしてこんなに爆弾を投下するのが好きなんだろうか。



**


「……はあ」
「そんなに嫌だった?迎えに行ったの」
「そういう意味じゃないんですって…嬉しかったです、けど」


本当になにも分かっちゃいないんだろう。河川敷のベンチに座り込んだ瞬間、思わず頭を抱えていた。隣に座ったのはアイスを手にした名前さんで、すっとぼけた表情はムカつきもし、しかし同時に可愛いと思ってしまうのだから本当に……手に追えない。惚れたら負けとは言葉通りだ。

デートは嬉しい。嬉しいが、クラスのやつらのざわめきは耳に残っている。ほとんどは名前さんを賞賛する声だった。それはまあ当然だろう。彼女は中身はともかく、外側はとても美しく整っているのだから。だからこそ、だからこそだ。


「……見せたくなかった、ってのがあります」
「見せたくなかった?」
「―――っ、わざとですか!」
「えええ!?えーと、えー…と……見せたくなかった?それは私を?」
「そうですよ!」
「つまりそれってもしかして独占欲みたいなやつ!?」
「その通りです!」


――あれ、名前さんの顔が赤い。

こういった場合って俺が赤くなるのが順当じゃないんだろうか。まあ、認めてしまったらなんだかすっきりして清々しい。つ、つる、と俺の苗字を上手く言えずに動物の名前にしてしまっている名前さんの片手を掴んで引き寄せて、アイスを大きめの一口奪ってやった。本当にこの人は、……よくわからないけど、まあ、可愛いのは認める。



ひとりじめしたい



(2014/01/27)

剣城って絶対「!」使う会話そんなにしないと思うんだ…つまり偽物臭やばいって意味でしてね