それよりもっと厄介なもの
試合には出たいけど南沢さんには会いたくない。でも、南沢さんは嫌だけどサッカーしたい。サッカーはしたいけど、南沢さんとはあんまりしたくない。それはというのも、対峙した時に浴びせられる言葉に困惑してしまうからだ。困惑すると、動きは当然鈍いなんてものじゃなくなってしまう。いやそもそも南沢さんから逃げなければ良いだけの話だし、正面から対決したら多分私は勝てると思う。思う、が……年上だし……行動がオープン過ぎたり、積極的過ぎるとはいえ、私に好意を寄せてくれている。それが一番力任せになれない理由だ。だから、苦手となってしまっているのである。迫るのは好きだけど、迫られるのは正直あんまり耐性が無いなんて、とりあえずこんなこと剣城にだけは知られたくない。剣城にだけはなんとなく知られたくない、絶対にだ!弱みを見せるのは誰に対してだとしても恥ずかしいけど剣城となると今度は別格問題で、
「……なんじゃそりゃ」
「っきりのお!?」
「ブツブツ何言ってんのかと思ったらお前は……そんなに剣城が好きか」
「へ?うん好きだけど」
だって私は剣城と親友になりたいと思ってるし。
そう言った直後、『好きだけど』と返した時に目を大きく見開いていた霧野の肩が目に見えて大きく下がった。そしてはあ…と大きな溜め息。「駄目だこいつ、早くなんとかしないと…」「えっ何で?何もおかしな事言ってないと思うんだけど」何も考えずにそう返すと、霧野が何故だか目元に手を持っていった。おいまさかやめろやめてくれ霧野さん!?
「剣城が不憫過ぎるだろ!」
「ちょ、案の定か!何でいきなり泣くの!?」
意味分かんないけど私これ悪者みたいじゃないか!おずおずとハンカチを差し出すとひったくるように奪われ、目元を乱暴に拭う霧野。そして偶然ボールを持って、その横を通った事情を知らない狩屋が泣ーかせたーっ!とはやし立ててくる。あ、剣城に連行されてった。生きて帰っておいでね狩屋。私は狩屋の生命力を信じてるよ。とにかく狩屋は置いておいて、霧野だ。何故だか目元を拭って顔を上げた霧野の目は怒りに燃えているのである。わけがわからないよ!
「……お前それ、本気で言ってるのか?」
「本気だけどなんでそんな怖い顔するのさ蘭丸君よ」
「あのな、剣城はお前を追いかけてアメリカまで行ったんだぞ!?」
がっし!と肩を掴まれがくがくと揺さぶられる。え、うお、な、何だ!?何で霧野は怒ってるの!?どう頭を巡らせても(あ、頭痛するからもう考えるのやめよう)原因には思い至らない。うん、剣城がアメリカまで来てくれたのは純粋にとても嬉しかった。だから剣城も私のことを大事な先輩だとか友達だとか、仲間だと認めてくれているという風に認識したんだけどそれの何が問題だと言うのか。「おま、殴るぞ!?」「え!?何それご褒美なの?」ありがとうございます!と思わず頭を下げるとそのタイミングで蹴りが飛んできて私の頭の上をかすめた。何これ私凄い。今なら自分を褒めてあげられる。
「よし、じゃあちょっと来い名前」
「霧野の笑顔ってそんな殺意の波動に目覚めてたっけ」
目が完全に怒っていらっしゃるというか、殺意に満ちているような気がするのは私だけなんだろうかと思っていると霧野に手首を掴まれていた。そしてその手首を頭上に掲げられる。え、なに、みんな注目してるよ霧野さーん?私何も悪いことしてないはずなんだけd、
「おい全員集まれー!緊急会議だ!このアホをどうしてくれるか決めるぞ!」
えっ?
天然でも確信犯でもなく、それよりもっと厄介なもの
(2013/08/26)
試合前に一波乱。
サッカーするのはもう少し先。