八万打企画/剣城との子供が未来から来襲
※夢主と剣城の子供が出ています。ご注意






「………あれ?」


普段通り、マネージャー業に勤しんでいた放課後。
二軍のメンバーにドリンクとタオルを配って軽くなったカゴを持って歩きながら、ふとグラウンドに目をやると、私服の人影が見えた。どこかで見たことのあるような特徴的な髪型をしたその人影は、きょろきょろと周囲を見渡している。

ツンツンと立ったそのヘアースタイルは、本当に……誰に似ているんだっけ?「あ!」そうか、剣城に似ているんだ。弟かな?近づいてみようかな、とぼんやり考えると、その人影がじっとこちらを見つめている事に気がついた。どうやら私の声に反応したらしい。「……ん?」なんだろう、剣城に似ているようで、似ていない目だなあ。目元はなんだか私に似ている気がする。気のせいだろうけど、なんとなく嬉しくなった。しかし見た目は完全に小学生なのに、雷門中に何の用だろう?


「あの、」
「うわっ!?」
「……何でそんなに驚いてんの?俺のことずっと見てたくせに」
「え、いや、考え事を少し」


わあド生意気!と言う暇すら与えてくれないねこの子!気がつけば目の前に現れていた剣城弟(推測)は物凄く大人びた口調だった。下手すれば剣城より大人びている気がする。そして何故だろう、やたらと毒舌な感じがするのは。「私服だし、後輩に似てたからその兄弟かなーと思ったんだよ」負けたくなくてお姉さんぶってみるが、なんと剣城弟(きっと多分)にフン、と鼻で笑われた。えっ、何この子超失礼!


「気取らないでよ、母さん」


「………………………………………今なんと?」
「俺に対して気取るなんて、気持ち悪いよ母さん」


いたずらっぽく笑い、若いね母さん!と私の腰に抱きついてきた少年に対し、数十秒の硬直、そして呆然。―――直後響いた絶叫は、雷門中の土地全体は愚か街中にまで響くのではないかという声量で、雷門の校舎を揺らしたという。


**

※剣城視点


「おい名前、さっきの絶叫は一体何―――」
「剣城!緊急事態なのちょっと来てお願い土下座するから!」


サッカー棟に普段は絶対に見せない焦った顔をして、飛び込んできたのは名前さんだった。先程響き渡った絶叫に対して質問を投げかけた倉間先輩を吹き飛ばし、俺に駆け寄り手首を掴む。「え、あ、は」「本当ごめん!」はい、と言う前に物凄い力で引っ張られ―――かけて、止まった。「剣城は練習中だ、それとさっきの絶叫について何があったか説明しろ」「神童、私の人生が変わりそうなぐらいのピンチなの。本当に」そこどいてお願い、と頼み込む名前さんの前を、神童先輩が仁王立ちで止めていた。


「俺たちには事情を説明出来ないのか?」
「うん!いや、私も夢だと思ってるんだけど夢じゃなくてなんかもう本当に、」
「要点をまとめて離せ名前」
「私と剣城の息子を名乗る子が来てるの!」


……………?


「とうとう頭がイカれたのか」
「狸にでも化かされたか?」
「白昼夢でも見たんですよきっと」
「………違うの、ほんとなの……剣城って弟いないよね?」
「いません、けど」


全員、声が震えている。名前さんの顔なんて真っ青である。いや、有り得ないと普通ならば笑い飛ばすだろう。しかしフェイやワンダバたちと旅をしたことがあるからこそ、その言葉はかなりのリアリティに満ちていた。弟を問うということは、俺に、似てる……のか!?はあ!?名前さんと俺の、息子!?


「母さーん、まだー?」
「うわああああああああああああああ!?いや外で待っててって!」
「いーじゃん?別にー。俺同い年ぐらいの天馬さん見てみたかったし」


今起こったことをありのまま説明しよう。ういーん、と電子音がしてグラウンドの扉が開いた。ぴょこっ、と顔を覗かせた少し前の俺のような、見慣れない私服に身を包んだヤツが、名前さんに向かって、喋った。名前さんが、叫んだ。少年が、名前さんが悪巧みをしている時のような顔でにやりと笑い、「おおー!天馬さんだ!」と笑って天馬に手を振った。天馬は(いや他のみんなもだが)当然のことだが呆然としている。俺なんて目の前の光景が信じられなくて逆に冷静になってしまった。「 」しかし声はでない。ぎぎぎ、とゆっくり首を動かすと、目が合った。「あ、父さんだ!」うわあ写真のまんま!と楽しそうにするその少年は俺の傍に駆け寄ってきて、「やっぱ母さんで」「え、ちょっ」戸惑う名前さんの腰に、抱きついた。



「「「「「はああああああああああああああああああああ!?」」」」」



全員が叫んだ中、倉間先輩だけは「名前が子供に懐かれてる…!?」という種類の違う衝撃だったらしい。


**


「いや、悪かったな……私達が根負けしてしまって」
「ごめんねみんな。でも京也は、紛れもなく剣城と苗字さんの子供だよ」


絶叫、絶叫、呆然。余りの衝撃にショックを受けて倒れた三年生、真っ白になった名前さん。何に順応したのかは分からないが、引きつった笑顔で京也とサッカーとする俺以外の一年。そこに現れたのはワンダバとフェイで、事情を説明してくれた。ここに来るつもりがワンダバが少し時代設定を間違えたらしく、俺たちの未来のひとつの世界に到達してしまったのだとか。そこで出会ったのが京也と名乗る俺と名前さんの息子…で、名前さんが面白がって『こっちの時代の私と京介に京也を会わせてやってくれ』と言ったらしい。そのあまりの押しの強さに根負けしたワンダバとフェイは京也をここに連れてきたのだとか。

俺の一番の衝撃は名前さんが俺の事を"京介"と呼んだことなのだが、当の本人は真っ白になってしまって話を聞ける状態ではない。『母さん』がそんなにショックだったのだろうか…?「いや、そうじゃないと思うぞ剣城。名前はお前の事を恋愛感情で見始めているからな。純粋にブッ飛んだ話を聞いて混乱して恥ずかしくて灰になったんだろ」「霧野先輩、俺の心読まないでください!」


「ねえ父さん」
「……っ、なんだ」


天馬たちから離れ、俺の元へ歩いてきた京也。気を利かせてくれたのか、霧野先輩もフェイ達も俺たちから距離を取った。俺と言えば、まだ自分に似ているこの少年の存在を信じられないからか少し言葉に詰まってしまう。そんな俺に向かってへらりと笑った京也の顔には、しっかりと先輩の面影が見えた。


「ちゃんと母さん捕まえてよね?俺、生まれてきたいからさ」


―――未来は数多く存在するという。

パラレルワールドでは、俺と名前さんが結ばれない未来だってあるだろう。でも、結ばれる未来があるとこいつは言う。その結末からやってきて、自分の生きる場所を確かなものにしたいと思っている。

応えてやりたいから、俺は手を差し出した。


「未来で、お前に会うためだ」
「っしゃ!流石父さん!」


ぱん、と乾いた音が響いて手と手が触れ合った。俺よりも少し低いその身長は、いつか俺を簡単に追い越すんだろう。真っ白になった名前さんの写真を撮り、京也はフェイとワンダバに連れられてキャラバンで去っていった。



晴れやかな午後の来訪者

(その後、名前さんをはじめ倒れた三国先輩や石像になった神童さんたちを)
(一年+霧野先輩が必死に介抱したのはまた別の話)

(2013/07/09)

八万打企画より、姫苺様リクエストの剣城との子供が未来から来襲、でした!
名前や人数はお任せとのことだったので、名前は京也君にしてみました。
一応ヘアスタイルは剣城のちょい柔らかめな感じ、目元は夢主似のイメージです。
夢主のイメージ画がないんですけど、美人(外見だけ)なのできっと美形。

正確は小生意気で母に対して容赦無しだけど、甘えん坊。でも小生意気。
父に対しては尊敬してるからか、あんまり甘えられないけど、好きみたいな。
大人天馬と交流がある設定です。

いつも御回覧頂いてるとのことで、企画への参加もしていただいて…
本当にありがとうございました!