多分絶対に
※剣城視点
誰かに聞いて貰う、というのはあまりに女々しい行動の気がしたのでやめておいた。どうせ聞くのなら直接先輩の口から自分の耳に。……と、いうことで練習の合間を縫ってドリンクを飲んでいたところ、上手く先輩と二人きりになれた。自分から話しかけるつもりだったが、(いつもの事だけど)先輩の方から話題を振ってくれた。
「やー、まさか昨日は来てくれるなんて思わなかったよ!秘密にして後から教えてやろーと思ったんだけどね?あ、どうだったよチャーハン!旨かった?」
「その事なんですけど、」
「ぶっちゃけちょっと恥ずかしかったかも。結構びっくりしたんだよね、剣城が来たの。俺としたこたァおしぼり忘れるなんざ……」
このままだと貴重なチャンスが先輩のトークで埋め尽くされる(嫌ではないけれども今日は別だ)!という事で手元にあったドリンクをベンチに置く音で先輩の気を引いた。今日のドリンクも各メンバーに合わせてそれぞれ調整してある。疲れが和らぐのを感じながら先輩の目の前に手を突き出した。
「ちょっと聞かせてください先輩」
「おうすまん!何?聞きたい事?」
何でも聞けよ!と胸を叩く先輩。直後強く叩きすぎたのかむせていたので落ち着くまで待つ事にする。グラウンドの天馬の目が不思議そうだったが、悪い、もう少し休憩させてくれ。
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『ああ、イタリアでお世話になった人がねー、『お前は体力持て余し過ぎなんだよ』って言ってくれてね、手が足りてないっていう雷雷軒紹介してもらったの。今の店長は仮店長で、本当の店長は響木さんって言うんだけどサッカー関連で忙しいらしいしこき使ってもらってる。あくまで手伝いだから給料は無し!その代わりに店長がサッカーも料理も蹴りもちょくちょく教えてくれるし体力作りにもなるし、程良く疲れて夜はぐっすりだし!正直マネージャー業じゃ体力使えないから今の運動したい欲発散場所よ雷雷軒は』
「………らしいです」
「まあ、名前の体力はマネジ業務じゃ使い切れねえよな……」
何を話していたんだ、と倉間先輩に問われて先程の先輩の言葉を並べると納得されてしまった。グラウンドの隅では空野の洗濯カゴを受け取り両手と頭にカゴを乗せて歩く先輩の姿。毎回思うがあの人のバランス感覚は恐ろしい。そしてあれは俺でも持てるかどうか分からない量だというのに何故持てるのだろうか。
「それにしても運動したい欲って何なんだマジで」
「どんだけ動きたいんですかね先輩」
「何であんなのが好きなんだよお前」
「――っ、………そう見えるんですか?」
「ぶっちゃけ甘やかしてるだけみたいにも見えるけどな。若干過保護じゃねえの?」
「うっ」
年下だからと思いっきり後輩扱いされてしかいないけれど、やはり他の目線からだと俺が保護者のように見えるらしい。というか俺過保護なんですか倉間先輩!いや、しょうがないんですよ。なんとなく……先輩を見てると甘やかしたくなるというか、眺めていたくなるというか……と言うと「毒され過ぎ」「お前の目は大丈夫か」「これが惚れた弱みか」と恐ろしいものを見るような目で見られた。最近の自分は先輩に関しては変だと思うので反論も出来ない。とりあえず惚れてはいない!……た、多分……だけれど。
多分、多分絶対に
(………好き、なんだろうか?)
(2013/04/22)