確信犯?
「どう!?どう!?かっこいい?おっちゃん!」
「ああいいぞ!似合ってる!買ってくか!?」
「すみません笑顔で凶器振り回さないで貰えますか!」
買いません!と私を首根っこを掴んだ剣城がずるずると私を引きずってお店を出る。土産物屋で一目惚れした、少し濃い色の木を削った木刀は剣城のお気に召さなかったらしい。
*
「荷物になるようなものを最初から買おうとしないでください」
「でもほら、いざというときの護身用?あとはほら、剣城が攫われたりした時に敵をこう…」
「攫われたりしませんしいざという時は俺が何かしら蹴ります」
「私だってそこそこシュート力はあるよ!必殺技も!」
「俺名前さんの必殺シュートって見たことないんですけど」
「そうだっけ?」
頭を捻ってみると、確かに普段は使わない気がする。使うと三国さんとか信助とか、神童なんかに対策を取られてしまうと厄介だし、結局使わないままかもしれない。代わりにクイーンレディアを酷使している気がするけど、みんなが化身持ちのプレイヤーにぶつかった時のいい練習に…うん、きっとなっているはず。なってるといいなあ。
「そもそも私試合にさえ出れば必殺技使うよ?」
「練習試合に出たことありますっけ、名前さん」
「帰ってきてから一回もない!一昨日の試合形式練習でもベンチでずーっと待機してて、一乃がアシスト決めるの見守ってた」
「……ああ、この間は神童さんがポジションを変えてみようって提案したんですっけ」
「剣城MFやったんだっけ」
慣れなさそうだけど、案外楽しそうにしていた剣城を思い出す。ボール蹴って、FWを試していたメンバーを追い越しいつものようにゴールを決め、全員に苦笑されていた剣城は珍しく焦った顔をしていたっけ。私も混ざりたかったけど神童が記録付けろって言うから出来なかったんだ。確かにマネージャー業務が第一優先だからしょうがないんだけど!
「剣城、どうしよう」
「なんですか」
「私サッカーしたくなってきた」
「…今日は勘弁してください」
「ボールってどこかに無いのかな!あと広い場所」
「帰ったら好きなだけ付き合いますから。あ、そこに名前さんの好きそうな店が」
「うう…!」
剣城が指差す先には、確かに私の好みを突いてくる和小物を並べている店があった。のれんに書かれた店名を見て、思わず唸る私に剣城が笑う。「ほら入りましょう、何か買ってあげますから」……最近、なんだか剣城が私を子供扱いしてる気がするのは絶対に気のせいじゃないはずだ!
**
扇子、巾着、かんざし、それからたくさんの、色とりどりの浴衣。
入ったのはどうやら観光客用の、レンタルの和服店。最近お客さんの入りが良くてねえ、と嬉しそうに笑ったレジの奥さんは剣城のことをお気に召したようだった。いい男だねえ、これ着てみないかい、そうだ丁度明日は祭りがあるんだよとマシンガンのように喋る奥さんに剣城は着せ替え人形にされていた。私はその横で小物をこっそりと物色。
なかなかこういった押しに弱い剣城は男物の浴衣を流されるままに着ていたけど、正直目に毒だった。奥さんの趣味でちょっとはだけさせられた胸元だとか、正統派にきっちりと着せられたものだとか。ここで分かったのは剣城に和服がとても似合うということで、剣城の浴衣姿を見るたびに私の心臓が破裂しそうになるということだった。あれは本当に目に毒だ。
剣城の着せ替えが一通り終わったあと、剣城は音を上げて外の風に当たってくると店を一旦出てしまった。私はその間、こそこそと気になっていた浴衣を奥さんに着付けてもらった。もう一つここで分かったことは、私に浴衣があまり合わないということ。きちんと着付けるために全体的に寸胴にしなければならないのだけど、そのための詰め物がきついのだ。…まあ、剣城に負けたくないというのもあって我慢を決めた。こういったお店の浴衣とかは、やっぱり安く市販されている派手なものよりも勝負どころに相応しいと思う。
気が付くと随分時間が経っていた。明日お祭りがあるということを、もしかして剣城は知っていたんじゃないだろうか。旅館に帰る道すがら、剣城と他愛ない会話をしながらぼんやりと考えた。「剣城、明日のお祭りはどうする?」「予定も曖昧ですし、行きましょうか」どこか予定通りだと言わんばかりに笑う剣城は、やっぱり私を手のひらの上で転がしているんじゃなかろうか。嫌なわけではないけど、出し抜いてやりたくなる性はしょうがないんだよ、京介くん。ね、温泉楽しみだね!
(2014/06/21)