VIPなお出迎え
「あ、天馬君に剣城だ。お疲れ様」
「苗字先輩!お疲れ様です」
にこにこと眩しいぐらいの笑顔で、小脇にサッカーボールを抱えた天馬君が振り返る。放課後の昇降口前で学年が関係無しに混じっていても、天馬君と剣城の髪型だけは非常に特徴的だ。お疲れ様です、と振り返った剣城は無表情を崩さないまま小さく私に会釈した。ううむ、やはり剣城はクールというか無関心というか。サッカーをしている時は非常に活き活きとしているので、こういった剣城がなんとなく意外に思えてしまう。まあ、それはともかく。
「丁度良かった。神童に言い出せなかったんだよね…私今日、部活休むって伝えておいてくれない?」
「えっ、珍しいですね。何かあるんですか?」
「ちょっと用事が入っちゃって」
私としては不本意だけど、約束は約束だ。分かりました、と快く頷いてくれる天馬君は天使なんだろうな。それに比べてあの隠しきれないニート臭漂う、私の師匠は悪魔に違いない。ちらっと廊下にかけられた時計に目をやると、授業が全て終わる時間から既に10分が経過していた。
「多分もう来てるんだろうな…」
「苗字先輩、すごい嫌そうな顔ですね」
「あっやっぱり分かる?分かっちゃう?…部室に帰りたい」
憂鬱さから思わずそんなことを零すと、小さく剣城が吹き出した。「苗字先輩にも苦手なことがあるんですね」意外です、と優しく目を細めた剣城が笑う。「そりゃあ私だって人間だもの」「お化けじゃなくて?」「な、なんて失礼な…」芝居がかかった動作でおののいてみせると、また小さく剣城が笑う。優しい気持ちがふわふわと、私の心を満たしていく。
天馬君が剣城を楽しそうだとからかうのを聞きながら、下駄箱から自分の靴を取り出しに向かう。「剣城、俺たちといる時より楽しそうだ」「…そんなことはないだろ」「俺たちと一緒の時はあんな風に笑ってないじゃん!」「…天馬、お前は俺が笑わないとでも思ってるのか」「そうじゃないけど」…えっ?何この子達?私今、新しい扉を開きかけたかもしれないよ?……いやいやいや変なことを考えるのはやめよう。美しい友情万歳だ。
「剣城、サッカーしてる時は楽しそうだけどさあ…ほら話してる時とか」「…普通に楽しいぞ」「つっ、剣城!今ちょっと考えなかった!?」…ど、どうしてそこで突っ込んだんだ天馬君。少しほら、剣城が狼狽えてるのが分かるよ?「…天馬、お前は大抵信助と騒いでるから気がついてないんだろ」「え、何に?」「…………言わせんな!」「っ痛!?……あ、ああああ!?」わあ、じゃれてるじゃれてる。中学生かわいい。とりあえずこれは聞かなかったことに、
「苗字先輩!」
「っあ!?あ、うん!じゃあまた明日の部活でね!」
「いえ、そうじゃなくて…!」
カサ立ての向こう。一年生の、下駄箱の前。
影から頭をさすりながら、身を乗り出した天馬君が必死に外を指差している。「見て、見てよほら!剣城も!」多分、片腕を引かれているのだろう剣城も身を乗り出した。二年生の方からだと、天馬君の指差している方は少し見えにくいんだけど……つい、釣られて私も外を見てしまう。一体何がそんなに天馬君を興奮させているんだろう。どれどれ、
「あ、名前!こんなところに居たんだ。探したよ」
「……ひ、ヒロトさん!?」
VIPなお出迎え
(2014/06/25)
可愛い一年生の会話書くの楽しいです。剣城は喜怒哀楽の感情表現が乏しそうなので、小さいリアクションを天馬君がちょこちょこ見逃してて、負けず嫌いな天馬君が剣城をなんとか笑わせようと他の一年生に声をかけたりして…とか考えるのが楽しいです。ほのぼの一年生には笑顔が似合いますあああかっわいい