初めての秘密
私達のあいだには『壁』なんてなかったはずだった。
「どうしたよ、そんな浮かねえ顔して」
「……グリーン」
シロガネ山から降りた後、普段ならばすぐに研究所に戻る。……今日は、そんな気分になれなかった。
トキワジムに顔を出した私が明らかに普段と違うという事をすぐさま理解してくれたのだろう。
最初とはまったく違う声音でどうした、と聞いてくれたグリーンの服の裾を掴んだ。
「変なの、自分が」
「………」
「なんでこんな、……普通の事のはずなのに」
レッドが女の子と一緒に居たのが苦しいの。
それは口には出さなかったけれど、自分の中ではしっかりと認められてしまった事実だった。
レッドとの間に壁なんてなかったはずなのに、レッドがやけに遠く感じて。
―――どんどん遠くに行っちゃって、帰ってこなくなる気がした
「………なぁ、ナマエ」
「…………何?」
「俺ならさ、泣かせねえけど」
レッドみたいに分かりにくい態度は取らない、と呟いたグリーンに抱きしめられる。
どうして、と呟くとずっと好きだった、と返ってきた。なんで、何で私なんか
――――縋ってしまえば、楽になれる?
**
自分は最低だと思う。
「あ、居た」
「レッド!?な、んでここに……?」
「ナマエ、俺のとこにこれ忘れてたでしょ」
研究所の前に立っていたレッドが渡してくれたのは私の鞄。ああ、忘れてしまっていたのか
ありがとう、と言って研究所に入ろうとすると腕を掴まれて引き止められた。
「……何かあった?」
「え?いや、普段通りだけど……」
「普段通りって顔じゃない。……どうしたの?」
その目はいつに無く真剣で、―――目を思わず逸らしてしまう。
私の考えていることなんかが全部、汚いものみたいに思えてきてキリキリと心臓が悲鳴を上げる。
『………ちょっと、考えさせて欲しい』
――――結局、グリーンのことも中途半端にしてしまった私は最低だと思う
「なんでもない、……何にもないよ」
「嘘下手だよね、ナマエ」
「ほんとになんにもないよ?ちょっと調子が悪いだけ」
「………本当に?」
「うん。じゃ、私研究あるからもう行くね」
レッドに背を向けて研究所の扉を開く。グリーンに告白されたなんて言えるはずがない。
―――ああ、初めてレッドに嘘を吐いてしまった