君が異性に変わってゆく


一度届けてしまえば二度目も同じだろう、でグリーンに頼まれシロガネ山に登った私の目に飛び込んできたのは意外な光景だった。


「あはは、やっぱり敵いません」
「……もっと強くなれるよ、コトネなら」


耳に入ってきた会話からすると、バトルの後なのだろう。
可愛らしい女の子と少し頬を緩めて会話をするレッドが少し意外で、――心に靄がかかったような気分になる。
おーい、と声を上げて食料を持ってきた事をレッドに伝えるために手を振った。なんだろう、スッキリしない。


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「へえ、コトネちゃんはわざわざジョウトからこっちまで?」
「はい。ここには何度か通ってるんですけど、やっぱりレッドさんは強くって」


レッドの洞窟でお茶を飲みながら私は彼女――コトネちゃんの話を聞いていた。
流石生ける伝説、とレッドには聞こえないように小さく、少し悔しそうに呟いたコトネちゃんを見る。
シロガネ山に入っているという事は当然リーグも制覇しているのだろう。それでもレッドには敵わない、と。
彼女のポケモンはとてもよく鍛えられていて、彼女にとても懐いていた。でも確かにレッドという壁は本当に高い


「ナマエさんはレッドさんとどういう関係なんですか?」
「私?ああ、私はレッドの幼馴染なんだ」
「レッドさんの幼馴染って事は……グリーンさんも?」
「うん。三年前は私もカントーを巡ってた」


今じゃどっちにもバトルで勝てる気なんてしないけどね、と笑うとコトネちゃんが私のサーナイトをじっと見つめている事に気がついた。


「気になる?」
「……わっ、すみません!見たことのないポケモンだったからつい」
「この辺じゃ見ないよねー、この子はサーナイト。ホウエンのポケモンだよ」
「ホウエン……?」
「うん。私は普段ね、色んな地方を回ってポケモンの研究してるんだ」
「へえ!まだまだ私の知らない場所がたくさんあるんだ……!」


目を輝かせるコトネちゃんに思わず頬が緩む。なんだ、とても良い子じゃないか
とても素直だし、可愛らしいし、真っ直ぐだ。

―――なのにどうして、この胸のモヤモヤは晴れないんだろう


「……何変な顔してんのナマエ」
「あ、レッドさん!特訓、もういいんですか?」
「うん。ナマエ来てるしね」
「え、あ、なんかごめん」


お邪魔だったんだろうか、と思うといいよ別に、と普段のぶっきらぼうな声が呟いた。
少し申し訳ない気持ちになる。そろそろ帰ろうか、


「食料ありがとね。じゃあコトネ、行こうか」
「へ、二人でどこか行くの?」
「最近はこの近くでレッドさんに特訓してもらってるんです。じゃあナマエさん、また!」


え、ちょっと待って、と引き止める間も無く並んで洞窟を出て行く二人。洞窟の中に一人取り残される
引き止めて何を言おうとしたのかは自分でも分からないけれど、なんだかとても、


「何、これ」


もやもやとしたものが消えてなくならない。
彼女でもなんでもないんだよ?ただの幼馴染なんだよ?なんで、なんで?認めたくない


――――嫉妬、してるだなんて