許したわけではない


王牙学園の学年授業。
クラス関係なく男女に分けられ、くじを引いて同じ番号だった相手がパートナーになる。
そしてそのパートナーに背中を預けて戦闘の実技。……だったのだが。


「よ、よろしく、お願いします………?」
「……………」


引きつった笑顔のまま自分のパートナーになった少年を見やる。
やっぱりな!案の定何も喋ってくれないよ!そして冷たい蔑みの目線が痛い
自慢じゃないが、自慢じゃないが!私は学年どころか学園内で一番のバカである。
テストは常に退学ギリギリのライン。だって入学出来たのでさえマグレだったのだから。
そしてそんな私のパートナーになった男子生徒は、学年どころか学園内でTOPの実力を誇る、


―――バダップ・スリードだったのである


そりゃもう冷たい目で見られてもしょうがない。私の頭の悪さは学園中が知るところである。
辛いんだよ?下級生(主にゲボー君とブボー君)に「あ、バカが飯食ってるー!」とか指差されるの!


「あ、あのバダップ……君?私、出来る限り頑張「うーわ!バダップのパートナー名前かよ!なんだ、これ絶対俺らが勝つじゃん」えっ何でミストレ君が」


私の声を遮る、というか私を突き飛ばして現れたのはミストレ君。続いて同じクラスのエスカ・バメル。…男女混合じゃなかったの?


「……何故お前達は一緒に居る?」
「あー、なんかミストレと組みたいからって裏で色々あったみたいでな、こいつ女子扱い」
「女子が丁度一人足りなかったみたいだしね。――ぷっ、それにしてもバダップご愁傷様!」


やっと起き上がった私の背中を、ばんばんと遠慮なく笑いながら叩くミストレ君。やめてくれ本当
そりゃあ私と組んだ人ご愁傷様とは私も思う。思うけれども!


「ま、バダップと組めたのは唯一の希望なんじゃない?――君がバダップの足引っ張る事さえなければ一位になれるだろ」
「一位っ!?」


常に最下位だった私が!?一位!?しかも夢じゃない!?


「なあミストレ、こいつと知り合いなのか?猫被ってねえけど」
「失礼だな、蹴るぞ?まーね、なんていうの?……腐れ縁?俺は正直切りたいんだけど」
「おい今普通に喋りながら蹴ったな!俺は噂でしか知らないが、―――そんなに戦闘力が低いのか?」
「低いなんてもんじゃないから。役に立たない以前に足しか引っ張らないから」


一位という単語にトリップする私の横で一人が諦めの目、二人が恐ろしいものを見る目で私の姿を見ていた事に私は気がつかなかった
――――気がつく間もなくアナウンスが流れ、戦闘実技が開始しようとしていたからだ。


**


「本ッ当にごめんなさい!その、本当に……ごめんなさい!」
「…………………」


観客席の裏。誰も居ない廊下で私は腰を90度に曲げて頭を下げていた。相手はもちろん無言のバダップ・スリード。
今頃ステージでは学園内への中継の元、トーナメント形式を勝ち抜いて二組が決勝を争っているのだろう。大きな歓声が耳に届く
そろそろ、と顔を上げて私より背丈の高い彼の顔を伺――おうとするとがしりと頭を掴まれた。
無言のまま指にかけられる力。これはいわゆるアイアンクローというヤツでは、?


「い、いだだだだだだっ!?」
「………予選の第一試合で敗退」
「い、だいっ!?痛い痛いーっ!?」
「……戦闘実技はどちらかが戦闘不能とみなされればその時点で終了、だぞ」
「―――――ッ!―――――ッ!げ、限界!いだだぅがっ!?」
「最悪、だな」


限界を訴えると冷たい声と共に手が離されて思わずよろめく。倒れはしなかっただけセーフだろう。
―――そう、本トーナメントにすら行けず予選の第一試合で敗退したのである。"あの"バダップ・スリードが。
中継すらされない予選の第一試合である。原因はもちろん私。
試合開始早々に対戦したペアはバダップ君を見てかなりビビっていた。だが私を見た瞬間に顔を見合わせにやりと笑って――この通り。
運動神経も皆無な私には二人がかりで襲われてしまえば成すすべもなく気絶してしまったのである。
そしてそんな私を医務室まで運んでくれたのは目の前の彼。――頭が上がりません


「あの、……その、本当に」
「もういい、聞き飽きた」
「!じゃあもしかして許して」
「許したわけではない」


ヒビキ提督も見る戦闘実技の授業だったんだぞ、と睨まれてしまえば何も返せない。というかぶっちゃけるとバダップ君超怖い。鬼だこの人
彼が額に抱いた特別な紋様が、私のしでかした事の重大さを物語っているようで。
さぁ何て言われる?退学しろ?金を出せ?……せめて退学でありますように―――!


「周囲のお前への評価の意味がよく分かった。――徹底的に、俺が叩き直してやる」
「………………は?」