見惚れてんじゃねえよ


「ねぇねぇ、バダップの髪の色って綺麗だよね」
「……そうか?普通だと思うが」
「ううん、白なのに汚れてないじゃん。目の色もだけど綺麗な赤だよね」
「……そんなに褒めても何も出ないぞ、まぁ……嬉しいが」
「出させる気なんてないよ、ってバダップが可愛い……!エスカどうしよう!」
「知らねえよ」
「綺麗と言えばサンダユウなんかサラッサラだよね、何使ったらああなるの?」
「別に何も使ってないんだけどな」


髪の毛サラサラになりたい、とぼやくとエスカが私の髪に触れてお前は柔らかいじゃん、とフォローを入れてくれた。嬉しい
こういうさり気ないけど気を使ってくれるとこがエスカのいいとこだと思う。
バダップだって私のこんな話に付き合うのは面倒だろうに、無表情だけど相槌を打ちながら聞いてくれる。
サンダユウなんかホラ飲めよ、と紅茶を出してくれた。紳士だよなぁ

―――それに比べてコイツはどうだ。


「美しさならオレが断トツだと思うんだけど」
「ミストレと比べられると底辺に落ちるからやめて」
「へぇ、自覚はあったんだ?」
「このナルシストめ…!」


私の目の前に置かれた紅茶を当然の如く横取りして口付けるミストレはどうだ。
足を組んでソファーに深く腰掛けて、……まるで王様。
そしてそんな姿が様になっているから恐ろしい。
―――首を振って雑念を振り払う。休憩時間はもう終わりだ。
サンダユウが再び差し出してくれた紅茶を一口飲むと、じんわりと暖かさが体に広がる。


「さ、やりますか!次は……帝王学か、バダップお願い」
「分かった」
「帝王学だけはからっきし駄目だもんなナマエは。バダップが居て良かったよ」
「そうそう!エスカ自分は理解するくせに教えるの下手だもん」
「おま、それ言うな!」
「ふふ、だって本当の事じゃん」
「………はは」


―――――嘘、


「ば、バダップが笑った……!雷門との戦い以来久しぶりに笑った…!」
「そっ、そんなに可笑しいのかよ?」
「ああ、……仲が良いよな、お前たちは」
「「親友ですから」」


視線で合図して二人同時に胸を張って答えつつ、久しぶりに見るバダップの笑顔に戸惑いを隠せない。
バダップの年相応の少年らしい笑顔があまりに印象的過ぎて思わず見入ってしまう。
意外性?っていうのかな、こう、……ギャップ萌え?


「ナマエ」
「…………ミストレ?どしたの?」
「お前、何……」
「いや思わずバダップの笑顔に見入っちゃって。ああ良い物見た、これでテスト頑張れる」
「―――何バダップなんかに見入ってんの、オレがいるのに!」
「ッ!?」


声を荒げたミストレに驚いて、思わず体が跳ねる。
見上げるとミストレの顔は怒りに歪んでいた。……冗談じゃない
別に私がバダップに見惚れてもいいじゃない


「……ミストレ、今すぐここから出てって」
「――何故だ!」
「ここ私の部屋だもん、……なんなの、私の彼氏でもないのに!好き勝手に!」
「―――――――ッ!分かった、出ていく」


彼の言葉を聞いた瞬間に襲ってくるわけのわからない後悔。
イライラと立ち上がって部屋を出ていくミストレに、寮の部屋の扉をばんっと閉じられる。
音にびくりと反応する体。……やっちゃった、かもしれない


「その、ごめん」


部屋に残っていてくれた三人は気にするな、と言ってくれたけどその後の勉強はまったく頭に入ってこなかった。