オレを惚れさせてみなよ


「やぁナマエ、勉強してるの?」
「またミストレか、今度は何?」


図書館で偶然会ってしまったのはともかく何故声を掛けてくるんだろうミストレは。
こちとらテスト前なのだ。成績優秀な彼には分からないかもしれないが、私は瀬戸際なんですよ?
集中したいの、と視線に込めてミストレを睨むけれど彼は何も理解していないらしい。
ノートと教科書をひったくられる。うっわ、いい調子だったのに中断された


「ここってかなり簡単なとこじゃん、見ないと出来ないわけ?」
「うるさいな、人には人のペースがあるの」
「ここの式間違えてるけど」
「嘘っ!?」


嫌味の事なんて忘れてミストレからノートと教科書を取り返す。見直してみると確かに間違えていた。くそ……流石としか言い様がない
もう何度も同じ箇所で間違えている。気をつけているはずなのに


「……教えてあげようか?」
「えっ、本当?是非お願いします」
「――――え」
「……え?」


こちらを覗き込んできて教えてくれると言ったミストレに素直に反応すると、何故だか絶句されてしまった。どういうことだ
何、教えてくれるんじゃないの?どうしたの?とミストレの頬を引っ張ってみる。


「何をするんだ!」
「え、だって一瞬飛んでたんじゃない?意識」
「失礼だな君は……驚いただけだ」
「だってミストレ学年二位じゃん、教えて貰えるのは素直に嬉しいよ?」


というかミストレは私をなんだと思ってるの、と問いかけると変人、と返された。とりあえず布製の筆箱を投げたらキャッチされた。


「ねぇナマエ」
「何?」
「オレを惚れさせてみなよ、そしたら何でも教えてあげるよ?」


―――不覚にも。
不覚にもどきりと心臓が高鳴った。


シャープペンシルを持っていた私の手。
それをミストレは自らの口元近くにまで引き寄せて、そして美しく妖艶に微笑んだ。
何でも、と再び呟いて私の手の甲にキスを落とす。

………これは罠だ


「ご遠慮します、ば、バダップに教えてもらう」
「―――はぁ?バダップ?この俺が教えてあげるって言ってるのに?」


ちょっと待ちなよ、と制止する声も聞かずに勉強道具を引っ掴んで図書室を飛び出した。なんで私ドキドキしてるの